EXHIBITIONS

A Quiet Sun 田口和奈展

田口和奈 展覧会「A Quiet Sun」リーフレットのためのイメージ 2022 Courtesy of the artist

田口和奈 展覧会「A Quiet Sun」のための構想 2022 Courtesy of the artist

田口和奈 Exercise in shape(習作) 2021 Courtesy of the artist

田口和奈 エウリュディケーの眼#5 2019 Courtesy of the artist

田口和奈 エウリュディケーの眼 #39 2021 Courtesy of the artist

田口和奈 11の並行宇宙 2019 Courtesy of the artist

田口和奈 展覧会「Why do birds suddenly appear?」展示風景(Galerie Martin Janda、2020)
Photo by Kunst Dokumentation.com Courtesy of the artist

 銀座メゾンエルメス フォーラムでは、オーストリアを拠点に活動するアーティスト・田口和奈の個展「A Quiet Sun」が開催される。

 田口和奈は1979年東京都生まれ、現在ウィーン在住。東京藝術大学美術学部絵画専攻油画領域を卒業後、同大学院美術研究科で博士号を取得し、2010年には五島記念文化賞美術新人賞を受賞。これまで、アジアや欧州での個展やグループ展参加など、精力的な活動を行っている。

 田口は、多重的な構造を持つモノクロームの作品を通じて、時間や空間といった形而上の存在を見出そうとする制作を続けてきた。例えば、自ら制作した絵画や彫刻を多重露光で撮影する、プリントした印画紙の上に油彩のドローイングを描き、再び撮影をするといった重層的な手続きを経て生まれる作品には、写真でありながらも、長い時間をかけて画布に向かう絵画と同様の地平を見出すことができる。

 また田口の作品は、しばしば過去の美術作品の参照や、匿名のファウンドフォトや雑誌といった既存のイメージの応用を含む。収集した過去のイメージから象徴を読み取ろうとする身振りは、アビ・ヴァ―ルブルグ(1866〜1929)の「ムネモシュネ・アトラス」からの影響も受けている。田口はそれらのイメージのなかにある複数の時間軸や身体の断片から、記憶を生み出す星座的空間の兆しを掬い取り、そこに節制と偶然を招き入れるべく、時に修復し、時に自作のなかへと再び迷い込ませるという。

 本展「A Quiet Sun」は、今回のために制作した作品群と、田口が収集するファウンドフォトを用いて編成。神話や匿名の記憶は、ゼラチンシルバーのなかに息づく様々な身体の身振りや触覚からもたらされる。

 そして、ギャラリーにあふれる強い自然光をそのまま用いながら、建築を発見し、空間を整え、レイヤーを与えていくような大胆かつ繊細な展示方法は、田口の写真制作における問題コーパス意識を異なる角度から解釈する試みでもある。