EXHIBITIONS
横尾忠則「タマ、帰っておいで」
横尾忠則の個展「タマ、帰っておいで」が西村画廊で開催。稀代の美術家であり、愛猫家である横尾が、6年の歳月にわたり亡きタマへ捧げたレクイエムとなる。
1936年兵庫県に生まれた横尾は、60年代、傑出した才能をもつグラフィック・デザイナーとして頭角を現し、また絵画、映画、文学、音楽をはじめ他分野においても輝かしい存在感を発揮するなど、日本の前衛文化を牽引。土着性、暗喩、エロティシズム、氾濫する無意識や目眩く色彩が驚くべき親和力で結びつき、不穏なまでに並外れた創造性が勢いよく噴出した横尾の作品は、モダニズム一辺倒だった当時のデザイン界の閉塞状況を刷新し、その登場を分水嶺として、日本のポップ・カルチャーは決定的な変異を遂げた。
69年に第6回パリ青年ビエンナーレ版画部門でグランプリ、72年にはニューヨーク近代美術館で現存のグラフィック・デザイナーとして初の個展を行うなど、早くから国際的にも高い評価を獲得してきた横尾は、それ以降も国内外で多数の展覧会を開催し、日本を代表する美術家のひとりとして活躍してきた。80年にニューヨーク近代美術館のピカソ展で啓示を受けてからは、創作活動の重点を絵画制作へと移す。
横尾の絵画は、主に、自身の生い立ちや関心など私的な事柄を中心に、生と死、夢と現(うつつ)、日常と非日常が明確な境界なく描かれているのが特徴のひとつ。そこでは、幼児性、エロティシズム、暗喩、引用、反復、諧謔が豊穰に渦巻き、時代の精神が普遍的な高みの内に濃密に立ち現れている。また、まるで自身の内側に森羅万象があって、画家はその源泉に筆を浸すだけでこの世界の秘密を描き取ることができるかのように、それらの絵は無尽蔵の鉱脈を想起させる様々な意味や謎を内包している。
本展では、横尾が、2014年に亡くなった愛猫タマを描いた絵画作品約90点を一堂に初公開する。
猫という存在について、「アーティストのミューズであり、美の化身であり、アーティスト自身でもあり、アーティストが本来備えていなければならない性格をすべて持っている(『ひととき』[ウェッジ社]2020年1月号より)」と語る横尾。「人間臭いし、情がある」猫だったと横尾が述懐するタマは、あるときから野良猫として横尾家の裏庭に居着くようになり、以来15年間、同じ屋根の下で暮らしをともにした。
タマがこの世を去った2014年から今年にかけて描かれた連作は、「生まれ変わったら、また一緒の家族になろう(『週刊読書人』2014年6月6日号より)」というタマへの想いを胸に、横尾が愛猫の生前の写真をもとに制作したもので、率直に描写された何気ない瞬間の数々からは、タマに対する愛や両者のあいだに流れていた親密な空気を鮮明に伝える。
新作とともにギャラリーに並ぶ、横尾の画文集『タマ、帰っておいで』(講談社)も合わせて手に取ってほしい。
1936年兵庫県に生まれた横尾は、60年代、傑出した才能をもつグラフィック・デザイナーとして頭角を現し、また絵画、映画、文学、音楽をはじめ他分野においても輝かしい存在感を発揮するなど、日本の前衛文化を牽引。土着性、暗喩、エロティシズム、氾濫する無意識や目眩く色彩が驚くべき親和力で結びつき、不穏なまでに並外れた創造性が勢いよく噴出した横尾の作品は、モダニズム一辺倒だった当時のデザイン界の閉塞状況を刷新し、その登場を分水嶺として、日本のポップ・カルチャーは決定的な変異を遂げた。
69年に第6回パリ青年ビエンナーレ版画部門でグランプリ、72年にはニューヨーク近代美術館で現存のグラフィック・デザイナーとして初の個展を行うなど、早くから国際的にも高い評価を獲得してきた横尾は、それ以降も国内外で多数の展覧会を開催し、日本を代表する美術家のひとりとして活躍してきた。80年にニューヨーク近代美術館のピカソ展で啓示を受けてからは、創作活動の重点を絵画制作へと移す。
横尾の絵画は、主に、自身の生い立ちや関心など私的な事柄を中心に、生と死、夢と現(うつつ)、日常と非日常が明確な境界なく描かれているのが特徴のひとつ。そこでは、幼児性、エロティシズム、暗喩、引用、反復、諧謔が豊穰に渦巻き、時代の精神が普遍的な高みの内に濃密に立ち現れている。また、まるで自身の内側に森羅万象があって、画家はその源泉に筆を浸すだけでこの世界の秘密を描き取ることができるかのように、それらの絵は無尽蔵の鉱脈を想起させる様々な意味や謎を内包している。
本展では、横尾が、2014年に亡くなった愛猫タマを描いた絵画作品約90点を一堂に初公開する。
猫という存在について、「アーティストのミューズであり、美の化身であり、アーティスト自身でもあり、アーティストが本来備えていなければならない性格をすべて持っている(『ひととき』[ウェッジ社]2020年1月号より)」と語る横尾。「人間臭いし、情がある」猫だったと横尾が述懐するタマは、あるときから野良猫として横尾家の裏庭に居着くようになり、以来15年間、同じ屋根の下で暮らしをともにした。
タマがこの世を去った2014年から今年にかけて描かれた連作は、「生まれ変わったら、また一緒の家族になろう(『週刊読書人』2014年6月6日号より)」というタマへの想いを胸に、横尾が愛猫の生前の写真をもとに制作したもので、率直に描写された何気ない瞬間の数々からは、タマに対する愛や両者のあいだに流れていた親密な空気を鮮明に伝える。
新作とともにギャラリーに並ぶ、横尾の画文集『タマ、帰っておいで』(講談社)も合わせて手に取ってほしい。