現代美術に寄与してきた作家に迫る。1月号新着ブックリスト
『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を紹介。2018年1月号では、芸術理論や作品集など、幅広い視点から芸術を考える4冊を取り上げた。
『生きている前衛 山口勝弘評論集』
美術家・山口勝弘の評論集成。戦後日本の前衛美術を確立した「実験工房」メンバーとして活動した1950年代、「フルクサス」や建築家キースラーとの出会いから「生活の中の芸術」に向き合った60年代を経て、ヴィデオの可能性を押し広げた70年代、最先端技術を駆使する「ハイテクノロジー・アート」を主導した80年代、そして新たな美術館像や日常の展示環境を提言した90年代と、半世紀以上にわたり現代美術に寄与してきた山口の全貌に迫る。(近藤)
『生きている前衛 山口勝弘評論集』
井口壽乃=編
水声社|8000円+税
『ありふれたものの変容 芸術の哲学』
『芸術の終焉のあと』(1996)の邦訳出版も記憶に新しい、アメリカ人哲学者・美術批評家ダントーの代表作(1981)邦訳版。作品が発生したときの作者・受容者の意図によって帯びる「表象的属性」、その表象(再現)を構成する「内容」や「仕方」の厳密な検討を通して、「ありふれたもの」と「芸術」はどのように区別されうるのか、という素朴かつ難解な疑問に答えようとする。芸術が成立するための必要十分条件を哲学的に問う芸術理論。(近藤)
『ありふれたものの変容 芸術の哲学』
アーサー・C・ダントー=著
慶應義塾大学出版会|4600円+税
『日高理恵子作品集』
日本画材を用いて「樹」をモチーフに描いてきた画家の集大成的作品集。林立する木々をシャープな描線で描いた初期作品、見上げた視点から空いっぱいに広がる枝をオールオーヴァーにとらえた代表作など、約35年間の軌跡を紹介する。「樹」という対象に変わらぬ情熱を注ぎながらも、そのアプローチは多彩。一貫性のなかにも試行錯誤の痕跡が確認できる。収録テキストでは小林康夫、蔵屋美香、森啓輔が三者三様の切り口から日高作品を論じる。(中島)
『日高理恵子作品集』
日高理恵子=著
ヴァンジ彫刻庭園美術館|4200円+税
『アイリーン・グレイ 建築家・デザイナー』[新版]
モダンデザインのパイオニアでありながら建築家としても活躍したアイリーン・グレイ(1878~1976)。女性が家庭に入ることが当たり前だった時代、強い信念を持つ彼女はデザイン界を牽引するような漆工芸品、家具などを生み出し続けた。アイリーンの友人として彼女の人生を尊重した映画プロデューサーが綴る精緻な評伝。晩年まで衰えなかった創作意欲もさることながら、個人の視点から切り取られる20世紀デザイン界の一端が興味深い。(中島)
『アイリーン・グレイ 建築家・デザイナー』[新版]
ピーター・アダム=著
みすず書房|5400円+税
(『美術手帖』2018年1月号「BOOK」より)