帰還困難区域でアートを展示する意味とは。「Don't Follow the Wind」が投げかけるもの
東日本大震災によって生じた東京電力福島第一原子力発電所周辺の帰還困難区域で2015年より展開されている展覧会「Don't Follow the Wind」。その一部が初めて公開された。
東京から特急電車で約3時間。福島第一原子力発電所事故によっていまも広範囲が帰還困難区域に設定されている福島県双葉郡双葉町に着く。この町の避難指示が解除された場所で、ある作品を鑑賞することができる。小泉明郎の《home drama》だ。
これは、帰還困難区域で2015年3月11日より開催されている国際展「Don't Follow the Wind」(以下、DFW[*])の展示作品のひとつ。DFWは、Chim↑Pom from Smappa!Group、艾未未(アイ・ウェイウェイ)、グランギニョル未来(椹木野衣、飴屋法水、赤城修司、山川冬樹)、ニコラス・ハーシュ、ホルヘ・オテロ=パイロス、小泉明郎、エヴァ&フランコ・マッテス、宮永愛子、アーメット・ユーグ、トレヴァー・パグレン、タリン・サイモン、竹川宣彰、竹内公太といった国内外12組のアーティストが参加するプロジェクトで、原発事故で避難した住民から借り受けた複数の場所を会場に作品を展示。避難指示が解除されないかぎりは見ることができないという展覧会だ。
帰還困難区域は震災から11年が経ったいまでも約95パーセントが継続されており、この国際展の大部分の作品(11作品)は見ることができない。しかし今年8月、双葉町の一部地域で避難指示が解除されたことで、今回の一般公開が初めて可能となった。
小泉が作品を展示するのは、JR双葉駅から徒歩7分ほどの場所。双葉町で自営業を営んでいたある家族の敷地だ。もともと家屋や畑などがあったが、2018年には小泉の作品もろとも家屋が取り壊され、いまは敷地のほとんどが更地になっている。今回展示される《home drama》は、その壊された作品を再構成したインスタレーションだ。
来場者は音楽プレーヤーとヘッドホンを受け取り、そこから流れる音声を聴きながら、周囲を歩き回ることで作品を体験する。少し歩くと見えてくるのは、2011年から時を止めたままの公園や廃墟、あるいは近年取り壊された家屋の跡地、そして放射性物質を検査するスクリーニング場だ。プレーヤーから流れる男性の声は、故郷を追われることの意味や、故郷に帰る/帰らないの選択、帰りたい/帰れないという葛藤など、複雑な感情を聴く者に伝える。
小泉は今回の作品を制作するうえで、住民とコミュニケーションを取り続けてきた。そのうえで、「部外者は(避難指示解除で)帰還できることは『いいこと』だと思ってしまうが、当事者には複雑な思いがある。その当事者の複雑な感情を作品にしたいと思った」と振り返る。
日本において前例のない原発事故と、それによってもたらされた大きな被害。そこでアートを展示することはどのような意味を持つのか? 小泉はこう語る。「アートは、ジャーナリズムや報道とは違うチャンネルを開くことができる。忘れ去られてしまう人々の複雑な感情を、作品化して残すことこそが大事だ」。
キュレトリアルチームのひとりであり、立ち上げからDFWに関わってきた窪田研二は、DFWを「住民の理解があってこその活動」としつつ、帰還困難区域でアートを展示し続ける意義をこう振り返る。
「原発事故によって人が住めない広大な地域が発生し、いまでも故郷を追われて違う場所に住んでいる方々が大勢いる。帰還困難区域の中で展覧会をやり続けることで、そのような状況が続いているということを発信し続けられる。一般の人は(区域に)入ることはできないが、アートの力でその中を想像することはできる。そして区域内を想像することは、ここに住めなくなってしまった方々の状況を想像することにもつながる。それが、あえて人が入れない区域で展覧会を開催する意味だ」。
避難指示が解除されたのは全体の5パーセント以下。広大な地域が、いまなお人が住めないままであり、全面解除がいつになるのかは誰も知るすべがない。本展は、日本においてこうした状況が継続中なのだということを来場者各々が身をもっとて体感できる、極めて貴重な機会だと言えるだろう。
なお会場には、DFWのキュラトリアル・コレクティブがこれまで帰還困難区域外(世界15ヶ国)で区域内のプロジェクトの状況を伝えるために行ってきた活動「ノン・ビジターセンター」の最新作を設置。また、2021年3月11日14時46分に福島県富岡町に誕生したミュージアム「MOCAF」のポップアップ・ストアも開設され、交流の場となる。
*──Don't Follow the Wind: キュラトリアル・コレクティブ
Chim↑Pom from Smappa!Group [発案者]、 窪田研二、ジェイソン・ウェイト、エヴァ&フランコ・マッテス