EXHIBITIONS

岡本瑛里展「素兎を南に追って」

2021.12.01 - 2022.01.15

岡本瑛⾥ ボロブドゥール(制作中) 2019- 撮影=宮島径 © OKAMOTO Ellie Courtesy of Mizuma Art Gallery

 ミヅマアートギャラリーは、アーティスト・岡本瑛里の個展「素兎(しろうさぎ)を南に追って」を開催している。

 岡本は2017年に東京藝術大学大学院美術研究科博士課程を修了。主に民話や伝承から得た主題を、取材や研究を重ねた独自の解釈を通して、緻密な構成と筆致、幾重にも重ねられた絵具の色層によって丹念に作品を描いている。

 本展で岡本は、18年よりインドネシアのジョグジャカルタでの約1年半にわたる滞在とフィールドワークを通して描いた作品群を中心に展開。タイトルにある「素兎(しろうさぎ)」は、滞在への関心を持つきっかけにもなった因幡の素兎の神話の源流が東南アジアにあることにふれた論考(*)から取られている。

 岡本がいままででもっとも多くの人物を描いたという新作《ボロブドゥール》は、ジャワ島中部にある仏教遺跡「ボロブドゥール寺院」を岡本の解釈で描いた大作。その上層には大乗仏教教典「華厳経」に収録されたスダナ(善財童子)が悟りを求めて旅をする物語『入法界品(にゅうほっかいぼん)』、下層には古代インドの仏教説話である『ジャータカ物語』、そして地上部分には地獄の層が繊密に描き込まれている。実際に現地の遺跡にレリーフとして残されている内容だけではなく、岡本が滞在中に見聞きした事柄や、類似する日本の説話、歴史的事象などが随所に盛り込まれ、作家独自の視点や考察を感じられる一作となった。

 また、ジョグジャカルタでの滞在を通して、インドネシアと日本の間で共通性のある神話の存在を知った岡本は、南方に伝わる南海の女王「ラトゥ・キドゥール」の神話と日本の記紀に登場する「トヨタマヒメ」を描いた《邂逅(ラトゥ・キドゥールとトヨタマヒメ)》など、日本神話にみられる南方の影響を示した作品群も制作。これまで日本の地でのフィールドワークを重ねてきた作家にとって、南方とのつながりを直接肌で感じられた経験は、日本の深層に古くから息づく物語の豊かな広がりを実感するきっかけになったと言う。

 さらに、本展ではインドネシアで撮影した写真に筆を入れるという新たなスタイルの作品や、ドローイング作品、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに影響を受けて描かれた作品なども展示。初めての異国の地でのフィールドワークを経て、新たな一歩を踏み出した岡本の奮闘と飛躍を会場で体感してほしい。

*──「『古事記』の因幡の白ウサギの話に似た伝承が東南アジアに広く分布している。そのばあい、日本のワニの役割を演じるのは多くはやはりワニである。これら海外の伝承が日本に流入し、ワニの生息地からはなれたのちも、かつての記憶がそのまま残った。」中村禎里『⽇本⼈の動物観―変⾝譚の歴史』ビイングネットプレス、2006年、40頁