都知事選を契機に検証する、小池都政の文化政策
7月7日に投開票される東京都知事選。56人というこれまでにない候補者が争う今回の都知事選を契機に、文化政策の専門家である同志社大学・太下義之が、小池都政の文化政策を検証する
① はじめに
今般の東京都知事選は、現職の小池百合子氏と前参院議員の蓮舫との一騎打ちになるとの報道がなされている。そこで、両候補の公約において、文化政策がどのように表現されているのかを確認してみたい。
小池百合子氏は、「スマートシティ いままでもこれからも。もっと!安心で、活力あふれるまちへ」という項目のなかで、「観光・芸術・文化世界一の都市の実現」を掲げている。そして、文化に関連する事項としては、「江戸・東京の文化を世界遺産に」「ナイトタイムエコノミーの推進で夜も楽しめる東京へ」「観光振興の更なる加速」「新たな文化芸術祭の開催」の4つを示している。
また、蓮舫氏は「約束07 良い政策は発展させる 行政の継続性も大切に」としており、この中で、「国際都市・文化芸術都市東京」を掲げている。その内容は、「東京 2025 デフリンピックなど、国際イベントの成功に向けて全力で取り組み、さらに都民が文化芸術・スポーツに親しむ機会を増やしていきます」とのことである。両候補ともに、文化を重視しているようには見えず、書かれている内容はイベントが中心のように見えるのは残念なことである。もっとも、公約とは短期間で作成されるテキストなので、公約だけでは具体的な政策は見えてこない。
いっぽう、現職の小池氏に関しては、現在の東京都の文化政策を検証することによって判断材料とすることができる。東京都文化振興部は、2030年度までの東京都の文化行政の方向性や重点的に取り組む施策を示した「東京文化戦略2030 ~芸術文化で躍動する都市東京を目指して~」を2023年4月に取りまとめている。本編は72ページにもなる文書であり、かなり網羅的に記述がなされているように見えるかもしれないが、決定的に欠如している事項がある。それは、「文化観光の推進」「社会的処方への取り組み」「アートによる街づくり」「デジタル・アーカイブの推進」「アーツカウンシル及び文化財団の機能強化」「コロナ支援の検証」の6項目である。