美術手帖 2018年4・5月合併号 「Editor's note」
3月17日発売の『美術手帖』 2018年4・5月合併号の特集は「アート・コレクティブ」。編集長・岩渕貞哉による「Editor’s note」をお届けします。
今号は「アート・コレクティブ」特集をお送りします。アート・コレクティブ、多くの読者にとっては聞きなれない言葉だろう。
ちょうど、本誌2017年12月号の特集「これからの美術がわかるキーワード100」、「アーティスト・サヴァイヴァル」の項目で取り上げている。そこには「単独ではなく複数でチームを構成し、その集団的主体性をひとりのアーティストとする考え方は2010年代に一般化した」とあり、作品を制作して発表するアーティスト・グループとしての面がやや強調されている。
とはいえ、2010年代以降に聞かれるようになった、アート・コレクティブの定義自体がまだ曖昧なのだ。ただし、現在のシーンにたいして、アーティストがサヴァイヴしていくための戦略であることは間違いない。
そのうえで、今回の特集ではもう少し広くアート・コレクティブをとらえてみたい。近年、集団でアート活動をおこなう潮流が目立ってきた背景には、現代美術が作品と展覧会、そしてその言説といった枠組みだけではとらえきれなくなったことがある。ウェブメディアやSNS上でのイメージやテキストの拡散、トークやパフォーマンスなど一回性のイベントなど、そうした活動の総体もアーティストの表現としてとらえられるようになってきている。
つまり、美術館のキュレーションやギャラリーでの作品販売、またプリントメディアでのジャーナリズムや批評、美大での教育といった、旧来の制度やプレイヤーの役割からこぼれる活動を、アーティスト自身が余白を突くように担い始めているのだ。この動きは、アートシーンの構造的な変動として制度が組み変わっていく契機となるのか。今後、私たちアートメディアも当事者の一人として、その渦中に関わっていきたい。
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『美術手帖』は、創刊70年を迎える2018年の新年度より隔月刊となります。メディア環境の劇的な変化のなか、昨年立ち上げたウェブ版「美術手帖」は、日々ジャーナリスティックな情報を発信して、読者を増やしています。そこで、本誌の役割を改めて見直すことにしました。ひとつのものとして編まれた「パッケージ」の力を活用した、より専門性の高い誌面を目指すべく、ボリューム、コンテンツともに強化していきます。また、アートファンのコミュニティづくりや世界への発信など、新しいサービスも展開予定です。次号の発売は、5月7日となります。新しい『美術手帖』にどうぞご期待ください。
2018.03
編集長 岩渕貞哉
(『美術手帖』2018年4・5月合併号「Editor’s note」より)