オムニバス映画『ベルリン、アイラブユー』でアイ・ウェイウェイの監督パートが削除。制作側が中国当局の反発を懸念
11人の映画監督が参加するオムニバス映画『ベルリン、アイラブユー』で、アイ・ウェイウェイが監督したパートが削除されたことがわかった。
先月、中国と西欧諸国の政治的対立について皮肉る声明を発表したアイ・ウェイウェイ。そのアイが参加したオムニバス映画『ベルリン、アイラブユー』で事件が発生した。制作側が、中国当局の検閲を通らず中国本土での配給を妨げられる可能性があるという懸念で、アイが監督を務めた部分をすべて削除したという。
この映画は、『パリ、ジュテーム』(2006)、『ニューヨーク、アイラブユー』(2008)をはじめとする映画シリーズの一部。ベルリンを舞台にした今回の映画には11人の監督のほか、キーラ・ナイトレイやルーク・ウィルソンなどの俳優が出演している。アイは本作にひとりの監督として参加。パスポートが没収されていた2015年の時点で制作を開始し、ベルリンにいる息子との関係に焦点を当てたものとなった。
2月8日にアメリカで上映された本作に対して、アイは自分のInstagramで次のような声明を発表した。「私たちの努力が消されたことを見つけるのは非常に不愉快でした。制作チームからの事前通知は一切なかったのです。私たちの関与がこの映画の宣伝に使われていたとしても、エピソードが削除された理由は、私の政治的な立場が制作チームの今後の制作資金を獲得することを難しくするからです」。
「The Art Newspaper」の報道によると、本作のプロデューサーのひとり、クラウス・クラウゼンは配給業者からの圧力があったため、プロデューサーたちはアイの部分を映画全体から切り取ることを決定したという。
クラウゼンは、「私たちは、中国やほかの地域で映画が配給されないことに、とてもプレッシャーを感じました。ほかの監督たちも関わったこの映画を上映する機会を確保したかった」とコメントしている。
また、この映画のエグゼクティブプロデューサーのひとりは、本作の続編として『上海、アイラブユー』を制作しており、アイの部分を切り取らなければこのプロジェクトが成り立たない可能性があるという。
なおアイは、今回の声明のなかでこう語っている。
過去には、言論の自由と人権を抑制する中国の取り組みは、欧米から批判されてきました。しかし、グローバリゼーションの台頭とともに、その態度は変化しました。言論の自由と人権はもはや民主主義国家によって擁護されておらず、代わりにこれらの極めて重要な価値は先見性のない経済的利益と目下の利益のために犠牲されています。 中国の検閲は中国国内で残酷に行われているだけでなく、海外でも徐々に強くなっています。一流の大学や科学研究室、そして驚くべきことに、西欧諸国のエンターテイメントやカルチャー産業にも中国の進出を感じています。