2019.2.22

アートとテクノロジーで社会を考える。東京ミッドタウンでスタートした「未来の学校祭」をチェック

「アートやデザインを通じて、学校では教えてくれない未来のことを考える新しい場」をコンセプトとしたイベント「未来の学校祭」が、六本木の東京ミッドタウン館内各所でスタートした。世界的なクリエイティブ機関・アルスエレクトロニカと協働したこのイベントの見どころとは?

展示風景
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 「デザインやアートを通じて、学校では教えてくれない未来のことを考える新しい場」。このコンセプトを掲げ、東京ミッドタウンと世界的なクリエイティブ機関・アルスエレクトロニカ(*1)が協働する大規模イベント「未来の学校祭」がスタートした。

 今回が初開催の「未来の学校祭」で展示されるのは、最先端のテクノロジーを駆使したアートの数々。2018年の「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」(*2)に出品された作品を中心に、東京ミッドタウンの館内各所で作品を楽しむことができる。

 来日したアルスエレクトロニカ・フェスティバルのディレクター、マーティン・ホンツィクは本展の意義についてこう語る。「(アルスエレクトロニカ・フェスティバルは)アートを触媒に、参加者全員と語り合うことを重要視しています。『未来の学校祭』はそのスピリットを体現するもので、アートに触れてただ驚くだけでなく、社会に本当に必要なものを一緒に考えてもらうきっかけにしたい」。

 数々の作品を通して、未来を見据えるきっかけを生み出すことを目指す「未来の学校祭」。では具体的にどのような作品が並んでいるのだろうか。

日常と非日常の境界線。「ギリギリ・ルーム」

 「ギリギリ」をテーマに掲げる今回は、「ギリギリ・ルーム」「ギリギリ・スクエア」「ギリギリ・ラボラトリー」の3つのカテゴリで作品が展示されている。 

 まずは東京ミッドタウンプラザB1の「ギリギリ・ルーム」から見ていこう。「日常と非日常の境界」をテーマとしたこのセクションで大きな存在感を放つのは、通常ではありえないバランスで佇むソファ《Balance From Within》だ。これは、時間や重力といった事象を使ってキネティックな作品を手がけてきたジェイコブ・トンスキーによる作品。

展示風景より、ジェイコブ・トンスキー《Balance From Within》

 本作でトンスキーが使用しているソファは、170年も前につくられたという古いもの。緻密なコンピュータ制御と、人工衛星にも使われるリアクションホイールによるロボット機構によって、ソファが1本の脚で“立つ”状況をつくりだす。倒れそうで倒れないというまさにギリギリの状態=均衡と崩壊の境界を感じられる。

 また同じく「ギリギリ・ルーム」では、シャボン玉を使ったヴェレーナ・フリードリヒによる《The Long Now》にも注目したい。

 通常、わずかな時間しかかたちを留めることができないシャボン玉。この作品でフリードリヒは、特殊な空間内にシャボン玉を発生させることで、その寿命を延ばすことを目指している。固定概念を覆すような、脆弱性と安定性の境界性に浮遊するシャボン玉に目を奪われることだろう。

展示風景より。ヴェレーナ・フリードリヒ《The Long Now》

人工物と人間らしさの境界線。「ギリギリ・スクエア」

 ガレリアB1アトリウムの「ギリギリ・スクエア」には、新たな生き物や生物らしさに着目し、生き物と人工物の境界に迫った作品が集まる。

 ミュージシャンで作曲家のアンドレと建築家・ミッシェルのデコスター兄弟によるアートユニット「Cod.Act(コッド・アクト)」が手がける《πTon(ピトン)》は、無脊椎動物のような巨大なゴムチューブが床をうごめくサウンド・インスタレーション。チューブは人工的な音の装置を持った4人に囲まれて、曲がりくねり、動き回る。命を持たないはず《πTon》だが、その姿はまるで原始的な生き物のようだ(パフォーマンス時間の詳細は公式サイトを参照のこと)。

展示風景より、Cod.Act《πTon(ピトン)》

 藤堂高行が生み出した《SEER(シーア)》も見逃せない。小型のヒト型ロボットである《SEER》は、カメラで対面する人間を補足し、アイコンタクトと眉や首の動きによってその表情をミラーリングする。《SEER》は、ヒトの視線がいかに雄弁であるかを伝えるとともに、「人間らしさ」とは何かを問いかけてくる。ぜひその前に立って、《SEER》と目をあわせてみてほしい。

展示風景より、藤堂高行《SEER:Simulative Emotional Expression Robot》

先端研究が生み出すもの。「ギリギリ・ラボラトリー」

 先端的な研究や、企業の高い技術や新しい分野へのギリギリの挑戦に注目し、そこから生まれたプロトタイプが並ぶ「ギリギリ・ラボラトリー」。

 ここではジゥリア・トマゼッロによる、ファッションと医療の境界に挑んだ《Future Flora》をチェックしたい。

 「ウェアラブル」や「バイオテクノロジー」をテーマに、技術と身体の境界を探るトマゼッロ。彼女がつくり出したのは、女性生殖器の感染症予防のためにバクテリアを培養する家庭用の培養キットのプロトタイプだ。「私のモチベーションは、ヘルスケアについて社会全体でオープンな会話を生み出すこと」と話すトマゼッロは、タブーとされがちな泌尿器・生殖器のケアについて、アートを触媒とすることで対話を促している。

ジゥリア・トマゼッロ《Future Flora》のプレゼンテーション

多数のイベントで「ギリギリ」を体験

 ここまで紹介した作品展示のほか、会期中には「ギリギリ」をテーマにした多数のイベントも行われる。

 パフォーマンスでは、ウラニウム(脇田玲+石原航)+藤村龍至/RFAが、ITで個人の活動がスコア化された未来の大学のあり方を問う「虚構大学2019年入学試験 by 六本木未来会議」を実施。アーティストでミュージシャンの和田永は、旧い電化製品を楽器に変えて演奏し、都市の廃棄物から新たに生まれる音楽の祝祭を妄想・実験する「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」を行う。

 またトークでは、アルスエレクトロニカの取り組みについてディレクターらが語る「アルスエレクトロニカのギリギリ」や、メディア・アートの魅力を探る「メディアアートはTOKYOを変えられるか?」など多数のトークセッションが開催される。

 ビジネスマンや買い物客、あるいは観光客など不特定多数の人々が行き交う東京ミッドタウン。この場所だからこそ実現した「未来の学校祭」でアートとテクノロジーを体験し、それらが現在の社会に何をもたらすのかを考えたい。

 なお東京ミッドタウンでは今回のアルス・エレクトロニカとの大規模な協業が実現したことを受け、今後も様々な発信を行っていくという。アイデアやイノベーションが発信され、それに人々が触発されていく「場」となることを目指す東京ミッドタウンの今後にも注目だ。

*1ーーアルスエレクトロニカはリンツを拠点に40年にわたって「先端テクノロジーがもたらす新しい 創造性と社会の未来像」を提案し続けている世界的なクリエイティブ機関。
*2ーー「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」は、芸術・先端技術・文化の祭典として広く知られており、18年は過去最高となる10万5000人が来場するなど、その規模はメディア・アートに関するイベントのなかでも随一を誇る。