ファッションに見る新しい表現(1)「HENRIK VIBSKOV」の風を比喩する試み
アーティストとのコラボレーションも増え、人々のファッションへの受容が拡大する現代。アーティストの美意識や思想に共感し、作品を購入するのと同じ意識で自身の衣服を選ぶ人も多いのではないか。このシリーズでは、ファッションの新境地を追求する気鋭のブランドを紹介していく。初回は、デンマークのブランド「HENRIK VIBSKOV」について取り上げる。
ヘンリック・ヴィブスコフは1972年デンマーク生まれのデザイナー。2001年にロンドンのセントラル・セント・マーチンズを卒業後、自身のブランド「HENRIK VIBSKOV」をスタート。03年よりパリ・ファッションウィークでコレクションを発表している。
ファッション・デザインのみならず、絵画や映像インスタレーション、音楽の制作も行うヘンリック。これまでも様々なジャンルのアーティストとのコラボレーションを展開し、ロンドンやシカゴ、中国の美術館やギャラリーで展示してきた。
日本においても、17年に金沢21世紀美術館で開催された、日本・デンマーク外交関係樹立150周年記念展「日々の生活 – 気づきのしるし Everyday Life – Signs of Awareness」に参加。
同展でヘンリックは《The Repetitive Clean(繰り返し洗う)》と題された、パフォーマンスを含むインスタレーションを発表。日々繰り返される「皿洗い」の動作をモチーフとして作品に落とし込み、生活とは完璧で美しく楽しいことばかりでなく、汚れや腐敗も忘れてはいけないということを表現した。
そんなヘンリックによる「HENRIK VIBSKOV」の19年春夏コレクションは、「Due to Sudden Weather Change ー突然の気候変化のため」がテーマ。「風」という気象上の現象を出発点に、人類がいかに風に頼り、運搬やエネルギー、遊びのための道具として使っているかのかを、衣服を通じて再認識するためのコレクションだ。
シャボン玉や紙飛行機、ブーメラン、パラシュート、航空力学、そして航空機が吐き出す悪臭さえもコレクションのキーワードだったという同コレクション。うねるようなテキスタイルとシルエットは、風を孕んだガーメントの動きから着想されている。
昨年6月のパリ・コレクションで発表した際には、会場に風車を模したオブジェが登場。このオブジェはランドリーサービスで使われていた古いシートをリサイクルしたものであり、ショーでは埃っぽい色味の作業服を着たパフォーマーたちがこの風車を操縦するインスタレーションが展開された。身体的かつリズミカルな演出で、同コレクションのコンセプトをより強調して見せたヘンリック。今後の活動にも期待が高まる。