菅木志雄のアトリエを訪ねて。「日常のなかに、アートへ転換できる動作、行為、状態はいくらでもある」
アーティストは日頃どんな場で、どのように創造をしているのか。アトリエを訪ねて、その場で尋ねてみたい。あなたはどうしてこんなところで、そんなことをしているのですか?と。今回赴いたのは、半世紀にわたり現代美術の最前線を歩き続ける、菅木志雄さんの創造の現場である。
静岡県伊東市の温泉街から、伊豆の山中へと車で分け入っていくことしばし。民家もまばらになってきたあたりに、菅木志雄さんのアトリエ「Kスタジオ」はある。
林を切り拓いて築かれた一本道の両側には、Kスタジオのほか鉄工所に木工所、自動車修理工場が見える。背後には幾重も稜線が連なり、ここからだと湖面は見えないが一碧湖も近くで水を湛えているはず。
山に囲まれ自然が豊かに残る土地であることは、生まれ故郷であり個展を開催している岩手と同じ。ただ、景観や自然のありようはどことなく違う気がする。
「植生がまったく変わりますからね。このあたりは針葉樹が多くて、冬場は葉が一斉に落ちる代わりに、春になると一帯がぱっと鮮やかな色合いになる。季節がはっきり感じられるというのは、まあ気持ちいいことですよ」。
木や石などを作品に用いることの多い菅さんにとって、アトリエ周りの自然はいわば素材の宝庫。ひょっとすると植生や地質には並々ならぬこだわりがある?
「いえまったく。自然がないと困るけれど、その性質や種類は創るものに何ら影響はありませんね。僕の場合、ここの素材はヒノキじゃないといけない、こっちは御影石でなければ、なんてことは一切ありませんから。
ただしそういう木の種別じゃなくて、もののありようとして、今度はこういう木の枝がほしいなといったイメージはつねにあります。次の作品にあったいい枝ぶりのものを見つければ、小さいノコギリ持っていって切り出して、山から拝借するんです。最近はこの界隈もこれで家が増えてきて、以前ほど自由に枝を見繕えなくてちょっと困ってます。
いつもそんなことを考えてウロウロしているから、もうだいたいどこに何があるかはわかってるんですよ。そうだ今度はあの枝を使おうかな、それまではあそこにそのまま生やしておこうか、といった調子で。もうね、いまや一帯が自分の庭みたいなもんですよ」。
ではやはり、この地にスタジオがあることは、菅さんの創作にとって重要な意味を持つということになろうか。