「アール・ヌーヴォー」と「都市空間のデザイン」──新しい技術は都市空間をどのように変えてきたのか?
「デザイン史」の視点から現代における様々なトピックスを考える連載企画「『デザイン史』と歩く現代社会」。テーマごとに異なる執筆者が担当し、多様なデザインの視点から社会をとらえることを試みる。第2回は滋賀県立美術館学芸員の芦髙郁子が、「アール・ヌーヴォー」のベル・エポック期に起こった街中の変化を通じて、都市デザインや広告の在り方の変遷について論じます。
皆さん、散歩は好きですか?
とくに都市部の街を歩くとき、何を見ながら歩いているでしょうか。建物のファサードや、看板、ポスターなどの広告。都市には様々なデザインがあふれています。新たな発見があったり楽しい反面、視覚的な情報量が多すぎて疲れてしまう人もいるかもしれません。
さて、第2回目の「『デザイン史』と歩く現代社会」は、1枚の写真から始めたいと思います。
これは写真家のウジェーヌ・アジェ(1857〜1927)が撮影したものです。フランス・パリの第6区サン=ジェルマン=デ=プレ地区にあるアベイ通りの一角。通り沿いにある壁には、所狭しとポスターが貼られています。「THEATRES」や「CONCERTS」の文字が確認できますので、それらのポスターが劇場やコンサートのためのものであることがわかります。アジェは役者や画家を目指し、40歳を過ぎてから生活のために、画家の作品資料向けの写真を撮り始め、変わりゆくパリの街や建築、意匠などを写したそれらは約8000枚にも及びました。この写真の撮影年は1898年。世紀末、パリがベル・エポック(美しい時代)と呼ばれ繁栄した華やかな時代です。そんな時代に生まれたアール・ヌーヴォーのデザインを、当時の写真を通して見ていきたいと思います。