2025.2.28

デジタル広報プラットフォームPRESS CAMPが描く広報の未来

総合PR企業・ユース・プラニング センターが、本格的なPR活動をオンライン上で行えるデジタル広報プラットフォーム「PRESS CAMP(プレスキャンプ)」のサービスをスタートさせた。本サービスを紹介するとともに、森美術館広報・プロモーション担当である洞田貫晋一朗とウェブ版「美術手帖」編集長の橋爪勇介に、いま美術館広報に必要なことについて聞いた。

聞き手・構成=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

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 50年以上にわたる歴史を持つ総合PR企業・株式会社ユース・プラニング センター。同社が、本格的なPR活動をオンライン上で行えるデジタル広報プラットフォーム「PRESS CAMP(プレスキャンプ)」のサービスをスタートさせた。 

 PRESS CAMPは「アート&カルチャー」「スポーツ」「ビジネス」の3カテゴリーで展開している。「アート&カルチャー」では、全国各地に美術館、ギャラリー、博物館、水族館、植物園などの文化施設の情報発信により、PR活動を支援することが可能となっている。ユース・プランニング センターは、年間30以上の展覧会の広報事務局を担当してきた広報のプロ。とくに美術展のPRには力を入れおり、多くの美術館の課題をヒアリングして生まれたPRESS CAMPは、これからの時代の美術館広報に役立つサービスとなっている。

PRESS CAMPウェブサイト

 今回は本サービスの魅力を紹介しつつ、広報戦略にも定評がある森美術館の広報・プロモーション担当である洞田貫晋一朗と、ウェブ版「美術手帖」編集長の橋爪勇介に、いま美術館広報に必要なことについても話を聞いた。

左から洞田貫晋一朗(森美術館広報・プロモーション担当)と橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

美術館の広報課題を解決するソリューション

 PRESS CAMPは、サービスを始めるにあたって、各美術館の次のような声を参考にしたという。同サービスの担当者はこう語る。「一部の美術館やギャラリーでは、広報を専門とする担当者が少なく、広報活動のための人手が足りないという話はよく聞きました。そのため、限られた労力で展覧会の情報を必要なところに届ける必要があるのですが、そのための情報や手段を模索している。情報の内容に応じて媒体を選定し、よりマッチング度の高いメディアに集中して情報を配信できる、数ではなく質のサービスが求められていると感じました」。

 こうした、「自社の情報をもっと効果的なメディアに伝えたい」「首都圏に拠点を持つ全国メディアを通じて幅広く発信したい」という要望と、「首都圏のPR会社に頼むと費用がかかる」「PRしたいが具体的なやり方がわからない」という悩みを解消すべく開発されたのがPRESS CAMPだ。デジタル環境を活用し、各地にいながらリーズナブルでスピーディーな情報発信を実現するだけでなく、配信後のメディアリレーションにも対応する環境とサービスを提供している。

PRESS CAMPの「アート&カルチャー」のサービス対象

 限られた予算で広報を行う美術館にとって、PRESS CAMPの初期費用の低さも魅力といえる。情報を置いておく「ルーム」の運営費は月額2万円のみ、自社のメディアリストを使用する場合は「ルーム」の月額費用に配信費用が含まれているため、無料で何回でも配信することが可能だ。しかも非常に簡単な操作で展覧会をはじめとしたイベントを登録することができる。

PRESS CAMPへのイベント登録の手順

 また、リリース情報などに興味を示したメディアから質問・問い合わせやリクエストを直接受け取ることができるコミュニケーション機能も搭載しており、こうした人的なつながりは、専門的なメディアとの密な関係を求める美術館の財産にもなる。

PRESS CAMPの特徴

メディアが求める展覧会情報とは

 いっぽう、情報を受け取るメディア側は、リリースされた情報を記事に取り上げるとき、何を重視しているのか。ウェブ版「美術手帖」の橋爪は次のように語る。

 「美術だけに絞っても、全国で多種多様な展覧会やイベントが日々開催されているので、リリースのメールも毎日100通を超える数が配信されます。そのなかから目に止めて内容を読んでもらうためにも、目を引くアイキャッチをリリースすることが重要です。また、記事にするためには、いまの時代画像は必須といえるでしょう。画像申請書に記入してFAXをしたり、PDFを送付して返送を待つ、という手間は、少人数で運営しているところが多いウェブメディアには負担になります」。

 PRESS CAMPはこうしたメディアにとっても、情報がまとまっており利用しやすい「24時間空いている広報事務局」といえるだろう。展覧会やイベントの情報を掲載しておけば、いつでも情報を取得してもらうことができるほか、広報用画像もメディア側からダウンロードすることができるので、すぐに記事やSNSでの拡散をすることが可能だ。

PRESS CAMPの展覧会情報

 また、美術館、博物館、音楽イベントなどに最適なメディアを紹介してくれるのもPRESS CAMPの特筆すべき点だ。編集者、記者、テレビ番組制作者などにダイレクトに届くメディアリストも用意されていて、情報内容に応じてカテゴライズしたリストを簡単に選択することが可能だという。全国メディアのみならず、主要な地方メディアも網羅しており、より効果の高いメディアや地域へと、情報を集中的にアプローチすることができる。

 さらに、より密なコミュニケーションを介したサポートサービスも用意していると担当者は語る。「ニュースリリースや取材案内のつくり方がわからない方には、PRツールの制作をはじめ広報事務局の開設など豊富なオプションメニュー(有料)をご用意しています。配信先が不明瞭なときも、PR専門企業の豊富な経験と、リレーションにより構築した弊社リストを貸与(有料)しています」。

 こうした情報発信をサポートするサービスについて、橋爪は次のようにコメントした。

 「情報を伝えるための専門的なサポートがあるのは良いですね。展覧会情報をそのまま出しても、おそらくユーザーには届かなくて響かない。我々メディアは、その情報を翻訳して読者に届けるという役目を担っているわけですが、その翻訳にあたって、ユーザーに届けたいポイントがどこなのか、それが可視化できるように情報を発信する側も考えることが必要です。これだけ情報が多いなか、そのスキルはすでに必須のものになりつつある。そのサポートを必要としている美術館は多いはずです」。

SNS時代の美術館広報を支えるPRESS CAMP

 いっぽう、洞田貫は美術館におけるSNSの重要性を、次のように語る。

 「他館の広報についての相談に乗ることも多いのですが、やはりSNSでいかに目に止まるキャッチーな情報を入れられるのか、というのは、現在の広報においては重要なことです。だからプレスリリースを出すときも、もっとも押し出すべき情報を強調したり、SNS掲載時に使用できる画像をつねにダウンロードできるようにするということが、広報に求められることでしょう。例えばInstagramなどは、できるだけ長く広告を見せることをビジネスモデルにしています。こうしたSNSでは、ただ広報側が見せたいと思っているものを出すだけでなく、その情報に少しでも長く触れさせるためにテキストや画像を工夫することが広報に求められています」。

洞田貫晋一朗

 PRESS CAMPではオンライン上でSNSでも活用できる情報や画像を24時間提供するだけでなく、SNS投稿代行やインフルエンサー施策(いずれもオプションメニュー)などを通してSNSの効果的なプロモーションを請け負うこともできるという。

 橋爪はメディアの立場から、SNSの難しさについて次のように話す。「SNSが重要になるに従って、美術館でもメディアでもSNSを運用するコストは増大しています。美術館もSNSでとりあえず色々とやってみているところは多いですが、効果的な広報ツールとして有効に使えてないところも多い印象です」。

森美術館のXアカウントの投稿

  美術館においては、とくにコロナ禍を契機に各種のSNSの有効活用を始めたところも多い。しかし、広報担当がプライベートでSNSを使ってなければ、ノウハウが足りないということも多々あるが、洞田貫は、それでもSNSに力を入れることの価値を次のように語った。

 「SNS戦略の成否は、具体的な入場者数に結びつくという印象が強いです。会場出口でアンケートを取って情報を集めていますが、SNSで展覧会を知って訪れたという回答はとても多いですね。展覧会の存在そのものに興味を持ってもらうイメージに、少しでも長く触れてもらって実際の行動に移してもらうか。この思考が必要です」。

 情報発信においてSNSを利活用するうえでも、PRESS CAMPの豊富な知見を使ってみるのも有効かもしれない。

広報の広がりを見せていきたい

 最後に、PRESS CAMPが今後の広報において目指すことについて担当者は次のように話してくれた。

 「『広報』の可能性の広がりを見せていきたいんです。誰かが情報に気がつくということは、本当に小さなきっかけが頼りだったりしますが、そのきっかけをつくるために、何をしたらいいのかわからない美術館やギャラリーは多いはずです。PRESS CAMPは予算的にも労力的にも気軽に使い始めることができるので、そういったきっかけになりそうなことを色々とつくって試してみて、判断材料にしてもらえるといいと思っています。小さいことでも、まずはプロの集団を頼ってもらえることで、広報の可能性は広がるはず。PRESS CAMPはその最初の一歩にふさわしいサービスだと思っています」。

 モノやサービスがあふれる現代において、ひとりの人間が自由に使える「可処分時間」の奪い合いが指摘されるようになって久しい。限られた時間のなかで、文化芸術にどれだけ興味を持って、会場に足を運んでもらえるのか。そのための広報に本気で取り組むときに、PRESS CAMPは強い味方になってくれそうだ。