マーシャ・ハフィフ「Change and Continuity 1962 - 1974」

　ファーガス・マカフリー東京は、マーシャ・ハフィフ（1929〜2018）の日本初個展「Change and Continuity 1962 - 1974」を開催している。

　ハフィフは1929年アメリカ・カリフォルニア州ポモナ⽣まれ。51年ポモナカレッジ卒業。69年までの約8年間をローマで過ごし、「ポップ・ミニマル」と呼ばれる作品群を現地で生み出した。その後、ハフィフは故郷のカリフォルニアに戻ると絵画を⼀時的に離れ、映像、写真、サウンドインスタレーションの実験的な制作を試みた。71年にニューヨークに移住し再び絵画への回帰の道を模索。ローマ滞在からニューヨークへ移住するまで、ハフィフの⽣涯のなかでももっとも変化に富んだ時期となった。

　ハフィフは垂直の筆跡反復にキャリアを通じて何度も⽴ち返り、様々なメディアとの組み合わせによってその限界を試しながら、新しい結果を⽬指し続けた。その制作において重要な垂直⽅向の筆跡の反復が最初に現れたのは、ローマにおける初期のドローイングであり、今回の展覧会「Change and Continuity 1962 - 1974」はこの初期ドローイングの紹介から始まる。

　アクリルやスプレーを⽤いて描かれたハフィフの作品は平⾯的でありながら、図の縁の境界線は緊張感をはらみ、地と図の関係性が揺れるようで⼤きな動きを感じさせる。スプレーペイントは当時、⾃動⾞製造に頻繁に使われる⽐較的新しい技術で、覆い隠された部分以外に絵具が付着するため、負の空間をつくることが制作⾏為となった。スプレーペイントを注意深く観察すると、表⾯に蓄積するかすかな擦れや絵具の溜まりが作家の⼿仕事を静かに物語っている。この偶然と介⼊、存在と不在の間の微妙な緊張感は、その後のハフィフの⻑いキャリアにおいても重要視されている。

　71年からのニューヨーク時代、ハフィフは当時絵画の存在意義が疑問視さる状況のなか、再び絵画に⽴ち返ることができないかと考えていた。鉛筆、アクリル、油、インク、エッグテンペラなどを⽤い、垂直⽅向の筆跡の反復により、様々な素材の検証を⾏うという⽅法論で制作を進めていった。

　74年の⽔彩画シリーズでは斜めに置かれた画⾯に描くことで、⽔性の顔料に重⼒の作⽤を与え、扱うメディウム特有の性質を敏感に感知した。これ以降、制作場所の地理的な移動だけでなく、鉛筆、ペイント、⽔彩へと扱うメディアも移⾏していくが、ハフィフはつねに物質と空虚、偶然と介⼊のあいだに⾃⾝を⾒出していた。

　本展では、「ポップ・ミニマル」の初期ドローイング、スプレーペイント、⽔彩画シリーズという、もっとも変化に富んだ時期の3つのシリーズに⾒られる展開、そして⼀貫して流れる、もっともシンプルな絵画的要素に静謐に向き合った、ハフィフの創作の姿勢を紹介する。