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2024.11.30

「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」(東京都庭園美術館)開幕レポート。光をめぐる作品の対話

東京都庭園美術館で鉄とガラスという異なる素材を扱う現代アーティスト、青木野枝と三嶋りつ惠による展覧会「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」が始まった。それぞれの素材や視点から光と空間の新たな可能性を探る独自の作品を展開している。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、三嶋りつ惠《光の海》(2024、部分)
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 鉄とガラスという異なる素材を扱う現代アーティスト、青木野枝三嶋りつ惠。ふたりが東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)を舞台に、それぞれの視点から光と空間の新たな可能性を探る展覧会「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」が開幕した。会期は2025年2月16日まで。

 青木は、1980年代初期より鉄を素材に制作を続けている彫刻家。工業用鉄板を溶断し、切り出したパーツを空間に合わせて組み立てる作品は、鉄という重厚な素材を使いながらも、線を描くような軽やかさを持つ点が特徴だ。シンプルな形状の繰り返しや自然の営みを想起させる作品は、新たな彫刻の可能性を切り拓くものとして高く評価されている。

展示風景より、青木野枝《ふりそそぐもの/朝香宮邸−Ⅰ》(2024)
展示風景より、青木野枝《ふりそそぐもの/朝香宮邸−Ⅱ》(2024)

 いっぽうの三嶋は、20代後半にイタリアへ渡り、1996年からヴェネチアの工房でガラス職人と協働しながら作品を制作している。無色透明のガラスにこだわり、自然と調和しながら景色を映し出す作品は、彼女の代表的な特徴であり、その建築的なアプローチは空間との共鳴を引き出す点で国際的な評価を得ている。

展示風景より、三嶋りつ惠《宇宙の雫》(2022)

 本展を企画した森千花(東京都庭園美術館 事業係長)によれば、この展覧会は「旧朝香宮邸に新しい息吹を吹き込み、現代という時間を迎え入れる」試みとして企画された。鉄とガラスという、邸内装飾にも多く用いられている素材を扱うふたりの作家の作品を通じて、過去と現在が対話しながら調和する展示が目指されている。

 展示監修を務めた建築家の青木淳は、ふたりの共通点について「空間そのものへの感受性の高さ」を挙げており、「展示構成では空間の特性を最大限に活かすことを心がけた」とし、木の床を保護する素材選びや展示室の配置バランスにも細心の注意を払った。これにより、作品と空間が一体となった独自の展示体験が可能となっている。

新館での展示風景より、青木野枝《ふりそそぐものー赤》(2024)
展示風景より、三嶋りつ惠《光の場》(2019)

 青木は、本展で鉄を溶断する際に現れる「透明な光」にインスパイアされた作品を展示。重厚でありながら有機的なフォルムを持つ作品群は、旧朝香宮邸の装飾と対話しながら空間を豊かにしている。また、通常は作品のパーツにおいて透明なガラスを用いる青木だが、今回は個人的な歴史や記憶を反映させた赤いガラスも使用されており、「昭和の歴史を宿す旧朝香宮邸に向き合うことで、自身の家族や過去を見つめ直した」という。

展示風景より、青木野枝《ふりそそぐもの/朝香宮邸−Ⅲ》(2024)
展示風景より、青木野枝《ふりそそぐもの/朝香宮邸−Ⅴ》(2024)

 いっぽうの三嶋は、旧朝香宮邸のアール・デコ様式に着目した作品を発表。例えば、本館大広間で展示されている《光の海》(2024)は、天井に設置された40個のライトに呼応するかたちで並べられた40点の透明なガラスの作品で、光の揺らぎや厚みを繊細に表現し、空間全体に広がるエネルギーを生み出している。三嶋は「作品が互いに対話しながらも適度な間を保つ配置を意識した」と語り、空間との共鳴を大切にしている様子がうかがえる。

展示風景より、三嶋りつ惠《光の海》(2024、部分)
展示風景より、三嶋りつ惠《TABLINO》(2024)

 本展の展示空間は、時間や季節ごとにその表情を変える。昼間は自然光が差し込み、夕暮れには室内照明が灯ることで、青木の鉄の彫刻が陰影を生み出し、三嶋のガラス作品が光を透過して輝きを放つ。その様子は、ふたりの作品が空間と対話しながら共存していることを物語っている。

展示風景より、三嶋りつ惠《SPIN》(2024)、《INFINITO》(2023)
本館3階ウインターガーデンでの展示風景より

 また、本展では展示作品だけでなく、ふたりの作家へのインタビュー映像や制作過程を示す資料もあわせて紹介されている。これらを通じて、青木と三嶋が現在どのような視点で世界を見つめ、何を感じながら創作に向き合っているのかを垣間見ることができる。

 異なる素材を扱いながらも、「光」を共通テーマとして作品を通じて新たな視点を提示する青木と三嶋。素材や表現、空間への向き合い方の異なるふたりの作家が、旧朝香宮邸という特別な舞台で共演する一期一会の機会をぜひお見逃しなく。

左から青木野枝、三嶋りつ惠