2024.9.26

「建物公開2024 あかり、ともるとき」(東京都庭園美術館)開幕レポート。旧朝香宮邸でアール・デコの「光」を味わう

東京・目黒の東京都庭園美術館で年に1度開催される建物公開展「建物公開2024 あかり、ともるとき」が開催されている。会期は11月10日まで。会場の様子をレポート。

文・撮影=中島良平

展示風景より、大客室から大食堂を望む
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 東京・目黒の東京都庭園美術館で年に1度開催される建物公開展「建物公開2024 あかり、ともるとき」が開催中。会期は11月10日まで。

 1933年に朝香宮邸として竣工したアール・デコ様式の建物が、美術館として開館したのが83年のこと。広い芝の庭に面したこの建物は東京都庭園美術館と名づけられ、邸宅の特徴的な空間と調和する展示の数々が行われてきた。同館では年に1度、美術作品を展示しない建物公開展が開催される。今年は「建物公開2024 あかり、ともるとき」として、天井や壁面に据えられた「照明」に焦点が当てられている。その多くが、旧朝香宮邸のために制作されたオリジナルのもの。1階大広間から見ていきたい。

東京都庭園美術館

 旧朝香宮邸の主要な7部屋の室内装飾を手がけたのは、フランスの装飾美術家であるアンリ・ラパン。画家としてキャリアをスタートしたのち、アール・デコにインスパイアされたデザインの数々を残したアーティストだ。約90センチメートル四方の格子に円のくぼみが収まるラパンによるデザインの大広間照明は、40個の電球が整然と配置され、シンメトリーな空間を柔らかく照らす。旧朝香宮邸において、ラパンは大広間横に設置された《香水塔》やいくつかの家具デザインも手がけていた。

展示風景より、大広間
展示風景より、大広間照明
展示風景より、ルネ・ラリック《香水塔》
展示風景より、大広間から望むルネ・ラリック《香水塔》
展示風景より、香水塔のから小客室

 続く大客室と大食堂はアール・デコの粋が集められた空間だ。大客室では、天井からはルネ・ラリックによるシャンデリアが室内を照らし、アンリ・ラパンによる壁面デザインや、ガラス工芸家のマックス・アングラン作のエッチング・ガラス扉など、至るところが装飾で彩られている。

展示風景より、ルネ・ラリックによるシャンデリア《ブカレスト》
展示風景より、大客室のエッチングが施されたマックス・アングランによるデザインのガラス扉
展示風景より、暖炉に置かれたテーブル・ランプ。ガラス製の傘はフランスの老舗工房ドーム製、スタンド部分はルイ・カトナによるデザイン

 そして、大食堂へ。壁面がイヴァン=レオン=アレクサンドル・ブランショのレリーフで彩られ、ルネ・ラリックによるシーリングライト《パイナップルとざくろ》が部屋を照らす。アール・ヌーヴォー期のジュエリーのスタイルを確立した第一人者であるラリックのシャンデリアをはじめ、植物などの有機的なモチーフを取り入れたデザインと、幾何学的でシンプルなアール・デコ様式との融合が旧朝香宮邸を特徴づけていることが、この大客室と大食堂で感じることができる。

展示風景より、大食堂
展示風景より、大食堂に設置されたルネ・ラリックのデザインによるシーリングライト《パイナップルとざくろ》
大食堂に展示されたフランソワ=エミール・デコルシュモンによる鉢(1925頃)

 2階へ。寝室などプライベートのための部屋が並ぶが、シャンデリアや家具のみではなく、各部屋を異なる色合いやデザインの壁紙が彩っており、部屋を移動するごとに雰囲気の変化を体感できる。

展示風景より、建物玄関側に位置する第一階段
展示風景より、2階広間
展示風景より、左から若宮寝室、合の間(化粧室)
展示風景より、若宮居間
展示風景より、左から書庫、書斎

 2階の居住空間はおもに、皇帝建築や儀式で使用する建築の設計・監理を担当した宮内省内の組織、内匠寮(たくみりょう)の技師たちによってデザインされた(書斎と殿下居間はアンリ・ラパンが内装設計を担当)。内匠寮は100名を超す技師が所属し、工務課長・北村耕造のもとで全体の基本設計を建築係技師の権藤要吉が担当したほか、照明や家具を技手の水谷正雄らがデザインしたという記録が残っている。同時代の建築としては、東京国立博物館本館(計画案:渡辺仁)の実施設計などにも同部署が携わっていた。

展示風景より、殿下居間
展示風景より、左が《朝香宮鳩彦王、朝香宮鳩彦王妃允子肖像》(1925頃)
展示風景より、第一浴室
展示風景より、妃殿下寝室

 建物2階南側には、殿下と妃殿下の居室からのみ出入り可能なベランダが設置されており、芝庭や日本庭園を一望することができる。大小の四角錐を組み合わせた灯具のフレームには屋外照明に用いられた型板ガラスが使用され、屋外との中間に位置することを感じさせる。また、白と黒の国産大理石が市松模様に敷かれた床のデザインにより、アール・ヌーヴォーやアール・デコよりもさらにモダンな印象を与える空間となっている。

展示風景より、ベランダ
展示風景より、左から妃殿下居間、二階廊下

 そして、通常の展覧会開催期間中には基本的に公開されていない空間が、3階のウィンター・ガーデンだ。冬の寒さが厳しい北欧や北米で、冬季の植物の生育の場として発展した室内庭園を指すこの言葉。太陽光を取り入れるためのガラス窓や、水道まわりなども整備されているこの部屋では、市松模様の床など2階ベランダと共通するデザイン要素にも注目したい。

展示風景より、ウインター・ガーデン

 本館建物をひと巡りしたら、新館では充実したデザインコレクションも展示されているのでそちらも見ておきたい。そして、鑑賞後にはぜひ、庭に出て建物をゆっくり眺めることをおすすめする。部屋ごとの外壁のフォルムや距離感など、外からもその徹底したデザイン意識が感じられるはずだ。

東京都庭園美術館