エレナ・ノックス「あざらし話」

　ANOMALYでエレナ・ノックスの個展「あざらし話」が開催される。

　エレナ・ノックスは1975年生まれ。デジタル・メディアやパフォーマンス、立体、音楽、インスタレーションなど様々な形態を用い、人間社会に潜む問題をユーモラスかつアイロニカルに表現するアーティストだ。

　日本国内においてはこれまで、「未来と芸術展：AI、ロボット、都市、生命 −人は明日からどう生きるのか」（森美術館、2019）に人間型ロボット（アクトロイド）と人間が演じる老いをテーマにしたビデオ作品《Pathetic Fallacy（感傷的虚偽）》を出展し、2020年のヨコハマトリエンナーレでは、セックスレスのエビのための観客参加型のプロジェクト《ヴォルカナ・ブレインストーム（ホットラーバ・バージョン）》を発表。さらに、「ICCアニュアル 2022 生命的なものたち」（NTTインターコミュニケーション・センター、2022）では、 ホログラムとして表示されるAIキャラクターとノックス自身との関係を進行形で鑑賞できるインスタレーション《The Masters》を展示した。

　本展では、昨年の「大地の芸術祭 越後妻有 2022」で発表したインスタレーション《あざらし話》を再構成して展示。タテゴトアザラシのAIロボット｢パロ｣ と7チャンネルの映像で構成されたこの作品には、人の心を癒すために開発された「パロ」とノックスが共に過ごした、東京から北極圏までの長い旅の過程と変わりゆく世界が映しだされている。

　さらに、日本初公開となる《Chinoiserie（ode to Wuhan）》（2019) も展示される。コロナ発祥の地と言われる中国・武漢にある廃墟化したホテルのプールで撮影された本作には、発展著しい同地の新旧入り混じる混沌とした様子がとらえられているという。

　既存のシステムが綻びをみせ従来の価値観が揺らぐいま、《Chinoiserie（ode to Wuhan（》と《あざらし話》を併せて鑑賞することで、「発展」という名のもとで行われてきた人間の行為を批判的にとらえることができるだろう。