EXHIBITIONS

米谷健+ジュリア「Dysbiotica: ミクロからマクロへ - バランスが崩壊する世界」

米谷健+ジュリア Dysbiotica 2020 ©︎ Ken + Julia Yonetani Courtesy of Mizuma Art Gallery

米谷健+ジュリア Dysbiotica(部分) 2020 ©︎ Ken + Julia Yonetani Courtesy of Mizuma Art Gallery

 アーティスト・ユニット、米谷健+ジュリアの個展がミヅマアートギャラリーで開催される。

 環境問題や経済システムの矛盾などから発想を得て作品を制作してきた米谷健+ジュリア。そのモチベーションは「不安」にあると語っている。

 冷静な分析に基づく、カタストロフな作品を手がけるふたりが今回着目するのは「微生物」。農業をきっかけに、地中に潜む微生物に興味を持ったことから、体内や海中などあらゆる場所に存在する微生物が、生き物と共生しながら世界の均衡を保っているという共通点に気づいたという。

 本展は、白化した珊瑚を一面に纏ったかのような男性像や妊婦、鹿の頭部などで構成される新作《Dysbiotica》を展示。同作は今年1〜3月にかけて、滋賀県立陶芸の森でのアーティスト・イン・レジデンスにて制作された。

 作品タイトルは、腸内細菌叢のバランスの崩壊を意味する語「Dysbiosis」からの造語。ふたりの数年間にわたる無農薬農業の経験をきっかけに、オーストラリアにあるクイーンズランド工科大学微生物研究所との共同作業を通じて得た着想がもととなっている。

 絶妙なバランスで構築された微生物群によるミクロ世界の崩壊がマクロ世界へと連鎖していくこと、そして、人と動物と微生物の織り成す共生の世界の崩壊。そんなテーマを持つ《Dysbiotica》は、世界的な規模で拡大する珊瑚の白化現象(珊瑚の死滅)を題材とし、磁器土を使用した白く硬質な表面に、終焉の気配や空虚な印象を持つ。そのいっぽうで、妊婦や鹿など生命力あふれる存在が、未来への微かな希望を感じさせる。

 ミクロの世界からのアラートに耳を傾け、世界的なパンデミックで岐路に立たされているいまの私たちと深くリンクする本展は、これからの時代を考える機会となるだろう。