EXHIBITIONS

ジェフ・ゲイス

2021.05.29 - 06.26

ジェフ・ゲイス Black Painting 2011 Courtesy of the estate of Jef Geys, TARO NASU, Tokyo, and Essex Street / Maxwell Graham, New York

 ベルギー出身のアーティスト、ジェフ・ゲイス(1934〜2018)の日本初個展がTARO NASUで開催される。

 ゲイスは、2009年に開催された第53回ヴェネチア・ビエンナーレでベルギー館代表を務めるなど、ヨーロッパを拠点として国際的に活躍した作家。アントワープの美術館KMSKAでの個展「Koninklijk Museum of voor Schone Kunsten」(1971)では、展示の一環として美術館の建物を爆破するプロジェクトを同国の文部大臣に書簡で提案したことでも知られている。

 ゲイスの特異な個性は作品世界にとどまらず美術教育の領域にも発揮されたという。1960〜89年の間、ベルギー、バレンの学校で教鞭を執っていたゲイスは美術の本質を伝えるため妥協を許さなかった。作家はそこで10〜15歳の生徒たちに向け、ルーチョ・フォンタナやロイ・リキテンスタイン、アンディ・ウォーホルらの実作品を教室に展示し、授業の一環としてマルセル・ブロータスのスタジオへの訪問を実行。また1984年に学校内で企画・開催した展覧会には、ゲント美術館から借用した古典的名画とスタンリー・ブラウン(1935〜2017)の作品を同時展示したことが記録されており、ゲイスの美術に対する広い視野と高い視座とをいまに伝える。

 本展で展示するのは、「Black Painting」と称される、既存の油彩画の一部分のみを残して黒く塗りつぶした作品群と、ゲイスが自身のカタログ・レゾネを作品化した「Work List」の2つのシリーズだ。

 ゲイスは「Black Painting」において原画となる油彩画を、安価な絵画を大量販売する工房から購入して制作に臨んだ。大衆受けを狙って描かれ、時には古今の名画から複製されたイメージのなかから、特定の部分を意図的に選んで残し、その他の部分は黒の絵具で「隠蔽する」という制作工程は、皮肉にも見るという行為の恣意性を「露呈させる」ものであり、美術の現場に交錯する眼差しの本質を問いかけるものだった。

 いっぽう「Work List」シリーズは、ゲイスが企画した学校内展覧会の記録を含む作品や出版など、過去の活動の記録で構成されたもの。カタログレゾネを作家自らが編纂することは、自身の存在の歴史化のための重要な工程であり、さらにそれ自体を作品化する行為は、ゲイスの作品世界のコンセプチュアルな個性を如実に表すものと言えるだろう。

 あくまでも身近な視点から、既存の慣習や体制に対する徹底的な疑問を提示したゲイス。独特の誠実さをもって既成概念にとらわれず、世界認識のあり方の模索したその取り組みを日本で初めて紹介する。