EXHIBITIONS

橋爪悠也「GRAVITY POINT」

2021.06.26 - 07.24

橋爪悠也 Lv4 2021

 アーティスト・橋爪悠也の個展「GRAVITY POINT」がYutaka Kikutake Galleryで開催されている。会期は7月24日まで。

 橋爪は1983年岡山県生まれ、現在は東京を拠点に活動。単色で彩られた地を背景に、一粒の涙が目から零れ落ちる瞬間を日本のアニメ的な描画方法で描いた一連の作品シリーズ「eye water」によって、近年注目を集めるアーティストのひとりだ。本展は作家にとって初の試みとなる立体作品に加え、アクリル絵画作品で構成される。

 幼少期より描くことやつくることが好きだったという橋爪は、専門学校を卒業した後、アウトドアブランドでの仕事を通じてブランドやプロダクトの在りようについて学び、また、独学でイラストやデザインの技術を身につけた後は、PR部門で仕事をしながら広告デザインや店頭でのプロモーションマテリアルの制作などを行っていた。その仕事を退職した後、改めて独学で試行錯誤を繰り返しながら画業を深めつつ、自身の作品を制作していくことを志す。その後、カルチャー誌より依頼された作画なども少しずつ行うようになりながら、自主企画の展覧会で作品を発表するにいたった。

 完成度の高い人工的なシステムのなかのオリジナリティの不在性を痛感した1980年代から、SNSを中心とした現在へ。こうした状況を経験する橋爪は、オリジナリティの不在を逆手にとるように、架空性・匿名性を徹底させた作品の制作をはじめ、2016年に開催した初めての展覧会では、実際には存在しない新種の植物を発見するという架空のストーリーをベースにした、ユーモアを感じる映像やイラストを含んだインスタレーション作品を展開した。同時に、幼少期よりふれ続け、その丸みを帯びた造形に惹かれていたという「ドラえもん」をはじめとする藤子・F・不二雄の描写を参照しながら、人物や動物の姿を描いた作品を発表した。

 橋爪は、「いかにして虚構として完成度の高い藤子・F・不二雄の作品を生み出すか」を着想源に、当初はシルクスクリーンでこの作品群を制作。発表を重ねながら徐々にアクリル絵具も用いるようになり、描写においても「涙」という象徴的なものや細部の描き方において作家ならではの要素を増していった。そこには、虚構とともにオリジナルとの間に生じるズレの体験をいかにして組み込んでいくのかという新たな側面も垣間みられる。

 本展では、アニメ的な描画方法を用いた人物や動物をモチーフとした最新作を展示。これまでの四角形の支持体を用いて静止画のようにつくられた作品とは異なり、動的な要素が加わり、前後の場面を想像させるようでユーモラスな印象を与える。

 なお本展で発表される立体作品は、QUELとの共同プロジェクトとして制作され、限定エディションによるマルチプル作品も発表。そして「GRAVITY POINT」の作品シリーズは展示作品を入れ替えながら、作家の出身地・岡山にも巡回予定だ。