EXHIBITIONS

伊藤慶二展

2022.01.14 - 02.12

伊藤慶二 おんな Woman 2016 © Keiji Ito

伊藤慶二 おとこ Man(部分) 2012 © Keiji Ito

伊藤慶二 おんな Woman 2019 © Keiji Ito

伊藤慶二 かお-ほうよう Face-Embrace 2018 © Keiji Ito

伊藤慶二 ういた眼 Floating Eye 2021 © Keiji Ito

伊藤慶二 おとこ Man 2011 © Keiji Ito

伊藤慶二 家と男女 House with Man and Woman 2019 © Keiji Ito

 陶の立体作品、絵画などジャンルにとらわれず精力的に制作を続ける86歳のアーティスト、伊藤慶二。その個展が小山登美夫ギャラリーでは開催される。会期は1月14日~2月12日。

 伊藤は1935年岐阜県土岐市生まれ。窯業が盛んで、安土桃山期に焼き物の大きな改革をしている美濃で育ったことに誇りをもち、現在も出身地で制作を続けている。武蔵野美術学校に学んだ伊藤は、森芳雄、麻生三郎、山口長男らに師事し油画を専攻。学生時代は、モディリアーニ、ピカソ、クレー、カンディンスキーや、また奈良・明日香村の巨大石造物や飛鳥大仏、薬師寺講堂の廃仏にも惹かれていたと言う。卒業後は、岐阜県陶磁器試験場デザイン室に籍を置き、クラフト運動の指導者・日野根作三に大きな影響を受けた。

 活動当初は平面での意匠のみ行っていた伊藤だが、実際の立体とのつながりに限界を感じ、自らやきもの制作を開始。以降、日常の器や茶器、クラフトに加え、早くから鉄など他素材も組み合わせた「陶による彫刻」「インスタレーション」のような立体造形を発表してきた。70歳を過ぎてからは、工房のほかに自宅内に絵画のアトリエも設置。純粋に絵画を楽しみ、20歳前後に叩き込んだ東西の美術の素養が、より新たな作品世界として展開される大きなきっかけともなった。

 ジャンルを軽やかに横断する作品世界について、作家は次のように語っている。「使うものと、アートに近いものと。二本の柱は意識していました。(中略)若い頃にキャンパスに描いていた絵が土に変わったくらいの感覚というか。別にそこに大きな違いがあるとは感じません」「用を持ったものでも、すごくアートに近いものってあるんじゃないかと。例えばボウルでも、そこに蓋をしてしまえば、アート作品になりうるのかもしれない。あまり、自分の中でそういった分類は意識していないです」。

 作家にとって小山登美夫ギャラリーでの初個展となる本展では、最新作である陶の立体、伊藤の源流ともなる油絵の近作、そして今回のために制作された布と糸のコラージュ作品を展示。本展の新作は、「おとこ」「おんな」「つら」「ほうよう」「うずくまる」といった、根源的な人の姿とその動作を表した陶の立体作品であり、いっぽうの絵画作品、コラージュ作品にもタイトル、テーマとして通じている。

 それぞれ、堂々としたようで、飄々ともしている。威厳があるようで、どこかおかしみを感じさせるとともに、緊張感と温かみを同時に感じさせてくれるような、独特の空気感をまとっている。この作品群のルーツとも言える「面(つら)」シリーズが制作されたのは、2008年からのこと。それまでの伊藤作品の「祈り」「HIROSHIMA」シリーズなどの寡黙で難解といった印象からがらりと作風が変わった。この頃はちょうど、伊藤が絵画アトリエをつくった時期であり、自らの源流を解き放して、「面(つら)」シリーズとして陶作品に昇華させたと言える。根源的な人の姿とその動作を表現した伊藤の作品は、現代生活のなかで忘れられがちな、生活とは、人間とはといった根源的な問いを体感させる。