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2022.2.21

「彫刻」を問い直す1冊から、21世紀の映画を論じる映像批評集まで。『美術手帖』2月号新着ブックリスト(1)

新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を取り上げる、雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナー。アーティストであり批評家の小田原のどかが彫刻を「思想的課題」として論じる『近代を彫刻/超克する』から、21世紀の映像を明るさ/暗さの両面から論じる『明るい映画、暗い映画』まで、注目の新刊を3冊ずつ2回にわたり紹介する。

評=中島水緒(美術批評)+岡俊一郎(美術史研究)

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近代を彫刻/超克する

 彫刻という言葉は、日本の近代化とともにつくられた言葉である。しかし、現在の芸術をめぐる環境のなかで、ほかの言葉へと置き換えられ始めてもいる。近代という時代を背負い、時に時代遅れに見えるかもしれない「彫刻」という言葉・事象を、あえていま、召喚し直すことで、いかに近代について(再度)考えることができるのか。これがこの本の中心的な問いだといえる。確かに、本書で提示される彫刻・彫像・記念碑にまつわる様々なエピソードは興味深いものではある。しかし、それらがいかなる意味で1つの大きな問いをなしているのかが曖昧なままのように思われた。本書で提示された問いは、さらに深められることを待っているようだ。(岡)

『近代を彫刻/超克する』
小田原のどか=著
講談社|1300円+税

イメージか モノか
日本現代美術のアポリア

 戦後日本の現代美術を1960~70年代に焦点を絞って考察した論考集。観念(イメージ)と物質(モノ)をめぐる作家たちの哲学的とも言える探究を、理論・実践の両側面から辿っていく。主に「反芸術」から「もの派」の動向を広めのスパンで取り上げているが、とりわけ「千円札裁判」とその周辺動向、「見ること」を突き詰めて思索した中平卓馬の写真や中原佑介の言説を丁寧に読んでいる。各作家が意識を差し向けたメディアの違いからも、同時代の問題意識が浮かび上がるかのようだ。(中島)

『イメージか モノか 日本現代美術のアポリア』
高島直之=著
武蔵野美術大学出版局|2500円+税

明るい映画、暗い映画
21世紀のスクリーン革命

 デジタル技術の導入は映像文化を大きく変容させた。映画史研究者・批評家の著者によれば、今世紀に入ってから、画面のすみずみまでがフラットに光り輝く「明るい画面」の台頭が目覚ましいという。他方、現代映画のいくつかの重要作品で観察されるのが、孤絶した存在に眼差しを向ける「暗い画面」だ。この対比を検証することで見えてくるものは何か。『君の名は。』『鬼滅の刃』といった人気アニメーション映画から実験的なデスクトップ映画まで、現在進行形のトピックとテクノロジーに即応して論じた映像批評集。(中島)

『明るい映画、暗い映画 21世紀のスクリーン革命』
渡邉大輔=著
blueprint|2500円+税

『美術手帖』2022年2月号「BOOK」より)