パレスチナ問題におけるフランスでの動揺と連帯。アーラム・シブリ個展、パレスチナ国立近現代美術館コレクションをめぐって
10月7日のハマスによるイスラエル襲撃以降、その暴力の応酬が止まない。パレスチナ問題への意思表示もまた「炎上」状態にある。家を追われたものの未来は? 連帯概念はどこにいったのか? 今夏からフランスで開催中の2つのパレスチナ関連展を通じて考察する。
フランス国内の状況
秋のアートフェアウィーク後もパリではテロへの警戒態勢が続いている。反ユダヤ主義を指摘された作品を撤去した昨年のドクメンタ15に続き、次回の芸術監督先行委員が総辞任した隣国ドイツでは、ナチスの教訓が転じて第二次世界大戦後に生まれたユダヤ人国家を全面的に支持している。フランスでも10月12日にはパレスチナを支持する集会が禁止されたが、実際には共和制広場に多くの人々が集まり、この戦争での死者数の増加と比例して規模が拡大した。翌月同日には反ユダヤ主義に抗議する大規模なデモも行われた。
フランスのユダヤ教徒コミュニティーは推定約50万人、イスラム教徒は500万人規模でそれぞれ欧州最大のため、一触即発の状況だ。10月13日に仏北部で起きた高校教師の殺害、一時停戦が解除されてまもない今月3日にエッフェル塔界隈で起きたドイツ人観光客の殺害は後者に属する者の過激思想による残忍な行為とされ、反イスラム主義の気運も高まっている。飛び火を避けたいマクロン大統領はその外交でパレスチナ・イスラエルの2国家共存を、内政では国民に団結を求めている。
アート界では、米国の美術雑誌『Art Forum』による公開書簡に続いて、11月7日、フランスのオンライン新聞『Mediapart』のブログ上で、同国の文化大臣や文化施設のディレクター宛に即時停戦の要求だけでなく、イスラエルの入植に抗議することを呼びかける公開書簡(*1)を掲載。7000人以上の文化関係者がパレスチナへの連帯を表明したが、後日に署名を撤回する人も見られた。今月3日には、主要紙『ル・モンド』が国内外での展覧会やオークション中止の状況に加え、公開書簡で署名しなかったウォルフガング・ティルマンスやカデール・アティアといったアーティストのコメントを取り付け、美術関係者内での立場の表明にまつわる分裂的な状況を報じた(*2)。
「アーラム・シブリ Dissonant Belonging(調和しない所属)」展(リュマ・アルル)
南仏にある財団リュマ・アルルでは、夏の写真祭との共催企画アーラム・シブリの個展が現在も開催中だ。シブリは1970年にイスラエル北部のシブリ=ウム/アル=ガーナムと呼ばれるアラブ人の街で生まれたパレスチナ人アーティスト。ドキュメンタリーの手法で写真を用いながら「家」という概念の矛盾や、抑圧的な政治が個人や共同体に課す制約とその限界を問う。