ミュージアムは幸せのためのインフラになりうるか? JKMM Architectsが考える、心の拠り所としてのミュージアム
ミュージアムでの体験が、人の幸せにどのように関わっているのか、ミュージアム建築を数多く手がけるフィンランドの建築設計事務所JKMM Architects(以下、JKMM)の活動を通してそのヒントを探りたい。
国際連合がまとめる「世界幸福度報告書」によると、例年幸福度一位の国に挙がるフィンランド。充実した社会福祉、ジェンダーイークオリティが浸透している社会などがその要因に挙げられるが、ミュージアムといった文化施設が身近にある暮らしも、満足度につながっているだろうか。
フィンランドのミュージアムはシカゴ・アテネウム建築デザイン博物館とヨーロッパ建築・アート・デザイン・都市研究センターが主催する国際建築賞(IAA)などを授賞し、ミュージアムの建物自体が注目されている。そうしたミュージアム建築を数多く手がけているのがフィンランドの建築設計事務所JKMM だ。このほど来日したメンバーとミュージアムのディレクターに、彼らが考えるミュージアムのあり方について話を聞いた。
JKMMは現在、100人を超える所員を抱え、建築の設計だけでなく、内装デザインから家具のデザイン、グラフィックにいたるまで、人がおのずと集いたくなる「場」づくりに360度の角度からアプローチする。
彼らが設計したミュージアムのなかで、世界的に注目されたのが、2018年にヘルシンキの中心街に開館したアモス・レックス・ミュージアムだ。アモス・レックスは1936年建造のレストラン、カフェ、ショップ、シネマに改修を加えた歴史的建造物と、アートの展示スペース用に新たに建設された新館からなる、広さ1万3000平方メートルのミュージアム。その新館は歴史的建造物の向かいの広場の地下に埋められ、外からはミュージアムがどこにあるのかわからない。地上に歴史が聳え立ち、地下に未来が埋められているという、反転したようなミュージアムの構造もユニークだが、何よりも異彩を放っているのが広場に突き出た新館の屋根。広場の地面そのものが隆起したような窓付きの突起物「ドーム」が新館の屋根となっているのだから。ミュージアムが地球の奥底から飛び出し、新たな地形を成すアモス・レックスは「外からはミュージアムと発見しづらいが、ひとたび中に入ればもっとも記憶に残るミュージアム」と言われている。