2024.8.1

夏休みに見たい展覧会ベスト(東日本編)

夏休みを利用して訪れたい、編集部が注目する展覧会を東京、東日本、西日本の3つにわけてピックアップ。ここでは東日本で見ておきたい展覧会ベスト30をまとめてご紹介する。

「フィリップ・パレーノ:この場所、あの空」展示風景より、フィリップ・パレーノ《どの時も、2024》(2024)
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「国宝『鳥獣戯画』北海道初公開 京都 高山寺展 ―明恵上人と文化財の伝承」(北海道立近代美術館

 北海道立近代美術館で、京都の高山寺の文化財を紹介する展覧会「京都 高山寺展 ―明恵上人と文化財の伝承」が開催される。

  高山寺には中興開祖・明恵上人(1173〜1232)にまつわる文化財が数多く伝わっている。1万2000点にもおよぶ典籍文書、仏画を中心とする多種多様な絵画、優れた仏師たちが手掛けた彫刻、明恵が生きた時代の息吹を感じさせる工芸品や建築など、驚くべき質と量を誇る。

 本展は、明恵の生涯とその教えをたどりつつ、高山寺の所蔵品のなかでもっとも親しまれているといえる国宝《鳥獣戯画》をはじめとする、貴重な文化財の数々を紹介するものだ。なお、北海道で《鳥獣戯画》が展示されるのは、本展が初の機会となる。前期と後期の2期に分けて展示される。

会期:2024年7月9日〜9月1日
会場:北海道立近代美術館
住所:北海道札幌市中央区北1条西17丁目
開館時間:9:30〜17:00
電話:011-644-6881
休館日:月(祝日または振替休日のときは開館、翌火は休館)
料金:一般 1900円 / 大学・高校生 1200円 / 中学生 700円

「鴻池朋子展 メディシン・インフラ」(青森県立美術館ほか)

 鴻池朋子の個展「鴻池朋子展 メディシン・インフラ」が青森県立美術館で開催される。会期は7月13日〜9月29日。

 鴻池は東日本大震災以降、地球の振動を新たな画材と感じ、旅をしては野外の技法を習得し、時に土木工事や縫いものをメディアに「絵」を描いてきた。昨年より東北でスタートした《メディシン・インフラ(薬の道)》は、鴻池が各地をめぐり、縁のあった場所に自作を展示保管してもらう長期的なプロジェクトで、その活動は福島、岩手、北海道へと少しずつ広がっている。また、鴻池は現在も能登半島地震の被災地の仮設住宅に設置されるカーテン作品を制作しており、その住宅もまたプロジェクトの一端を担うようになる。

 「作家やアーティストのようにメッセージや問いを投げかけるのではなく、後はもう自分の体しかない、というギリギリのところまで連れだしたい」と語る鴻池。観客の体がその場に晒された時、アートが人間の本能的なものに向けて、豊かに染み渡るメディシン (薬草)のように機能していくことが期待される。

会期:2024年7月13日〜9月29日
会場:青森県立美術館その周辺野外、国立療養所松丘保養園 社会交流会館
住所:青森県青森市安田近野185(青森県立美術館)
開館時間:9:30〜17:00(社会交流会館は10:00〜16:00)
休館日:美術館 7月22日、8月13日、26日、9月9日、24日 / 社会交流会館 月
料金:美術館 一般1500円 / 高校・大学生 1000円 中学生以下無料 ※社会交流会館は無料

「かさなりとまじわり」(青森県立美術館

参考図版 吉田克朗 《work 9》  1970 ユミコチバアソシエイツ

 青森県立美術館を設計した青木淳が提唱した「原っぱ」論を参考する展覧会「かさなりとまじわり」が同館で開催されている。会期は9月29日まで。参加作家は原口典之、吉田克朗ほか。

 展示室のみならず、コミュニティギャラリーやワークショップエリア、屋外ヤードなども展示やプロジェクトに活用し、展示室を含めた諸室をそれぞれの「原っぱ」に見立て、館内外の至るところでアートを発見、鑑賞、体験できる場を設けることで、美術館全体に大きな「つらなり」を生み出す。

 「展示室で展覧会を見て、ショップやカフェに立ち寄って帰る」だけでなく、県立美術館というひとつの街を自由に散策しながら、建築とアートの魅力を美術館全体から体感するものだ。

会期:2024年4月13日〜9月29日 前期:4月13日〜6月23日 / 後期:7月6日〜9月29日
会場:青森県立美術館
住所:青森県青森市安田近野185 
開館時間:9:30〜17:00 
休館日:第2・第4 月(祝日の場合は翌日に振替)、5月14日、5月15日、6月24日〜 7月5日
料金:一般 900円 / 高・大学生 500円 / 小・中学生 100円

「currents / undercurrents-いま、めくるめく流れは出会って」(青森公立大学 国際芸術センター[ACAC]

岩根愛 The Opening 2022

 青森公立大学 国際芸術センターで開催されている「currents / undercurrents-いま、めくるめく流れは出会って」は、「現在」という意味をもちながら、海流や気流をはじめとして、ある一定の方向に動く水や空気、電流などの変わり続ける流れを示す「current」と、表面や他の流れの下にある目に見え難い流れや暗示を意味する「undercurrent」をキーワードとして、ある場所とかかわり合いながら表現をつむぎ出す国内外のアーティスト、そして青森ゆかりの表現者たちによる作品が集う展覧会だ。

 参加作家は青野文昭、Jumana Emil Abbound(ジュマナ・エミル・アブード)、岩根愛、是恒さくら、光岡幸一、中嶋幸治、鈴木正治、Robin White(ロビン・ホワイト)ほか。

 前期と後期の出展作家は同じだが、会期半ばで展示替えをし、異なる 2 つの展覧会を行うことで、一回限りでない場所への働きかけや、変化し続ける「いま」をこの場に取り込むことを試みる。それぞれの表現が発生させる流れや渦のようなものが、出会い交差することで、また新たな流れや渦を無数に生成させていく、そんな実験的なアプローチを通して、人々の現在地を問うている。

会期:[前期]2024年4月13日~6月30日、[後期]2024年7月13日~9月29日
会場:国際芸術センター青森 ギャラリーA・B
住所:青森県青森市合子沢字山崎152-6
電話:017-764-5200
開館時間:10:00~18:00
観覧料:無料

「野良になる」(十和田市現代美術館

丹羽海子 Metropolis Series: Good Egg Community 2022 Courtesy the artist and Someday, New York 撮影:Daniel Terna ※参考図版

 近代が生み出した自律した理性的な主体としての「人間」を見直し、その成立過程で排除された存在や思考に目を向ける十和田市現代美術館の展覧会が「野良になる」だ。

 参加作家は、日本とアメリカにルーツを持ち、トランスジェンダー女性として生きるあり方を彫刻で表現する丹羽海子、10歳の頃に学校を離れ、研ぎ澄まされた独学の感性で風景を描く䑓原蓉子、品種改良や養殖といった人間のコントロールと動植物の生が交錯する関係を取り上げ、映像や料理の作品をつくる永田康祐、ブラジルに植民地時代以前から伝わる知識をもとに、植物と人間の関係性を問い直す作品を制作するアナイス・カレニンなど。多様な視点から自然を捉えるアーティストの表現を紹介している。

 国内外の若手作家の新作を中心に、彫刻、映像、ウールのタペストリー、サウンド、屋外インスタレーション、料理など、多岐にわたる表現形式で現代アートを楽しめる展覧会となっている。

会期:2024年4月13日~9月1日
会場:八戸市美術館
住所:青森県八戸市大字番町10-4
電話:0178-45-8338
開館時間:10:00~19:00(入館は閉館30分前まで)
休館日:火、6月26日 (4月30日、8月13日は開館)
観覧料:無料

「蜷川実花展 with EiM:儚くも煌めく境界」(弘前れんが倉庫美術館

展示風景より © Lucky Star Co.,Ltd

 弘前れんが倉庫美術館で、「蜷川実花展 with EiM:儚くも煌めく境界」が開催されている。

 本展は、写真家・映画監督の蜷川実花が、データサイエンティストの宮⽥裕章、セットデザイナーのEnzo、クリエイティブディレクターの桑名功らと結成したクリエイティブチーム・EiMとの協働により実現する⼤規模な個展。

 うつろう時間やながれゆく季節の境界を超える壮⼤なインスタレーションを発表するほか、蜷川がコロナ禍の弘前をはじめ、⽇本各地で撮影した桜の写真など、初公開の作品を含む近作により構成されている。

会期:2024年4月6日~9月1日
会場:弘前れんが倉庫美術館
住所:青森県弘前市吉野町2-1
電話 0172-32-8950
開館時間 09:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:火(ただし、4月23日、4月30日、8月6日は開館)
観覧料:一般 1500円 / 大学生・専門学校生 1000円 / 高校生以下、障がいのある方と付添の方1名 無料

「エンジョイ!アートファーム‼」(八戸市美術館

参加アーティスト(左から)磯島未来、東方悠平、漆畑幸男、しばやまいぬ、蜂屋雄士

 八戸市美術館で同館のコンセプト「出会いと学びのアートファーム」を体現する企画「エンジョイ!アートファーム‼」を実施している。

 美術館を象徴する空間「ジャイアントルーム」で、八戸を拠点とする磯島未来、漆畑幸男、しばやまいぬ、蜂屋雄士、東方悠平の5人のアーティストが、来館者とともにつくり、楽しむプロジェクトを展開。

 作品を鑑賞するだけでなく、絵を描く、トークプログラムに参加する、ジャイアントルームに滞在するアーティストと交流するなど、多様なジャンルで日々繰り広げられる活動により、来館者とアーティストがこの場で出会い、関わり合う。

会期:2024年4月13日~9月1日
会場:八戸市美術館
住所:青森県八戸市大字番町10-4
電話:0178-45-8338
開館時間:10:00~19:00 ※入館は閉館30分前まで
休館日:火、6月26日 (4月30日、8月13日は開館)
観覧料:無料

「THE新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦」(秋田県立近代美術館

 渡邊庄三郎(1885〜1962)は、、明治以降、西洋の写真や印刷技術導入の影響で衰退の一途をたどっていた浮世絵木版画(錦絵)の復興と、新しい木版画制作を志した版元だ。

 渡邊は来日した外国人画家の作品の版画化を試み、新進気鋭の画家たちとともに、高い芸術性を意識した新しい木版画の制作に取り組んだ。江戸時代に確立された絵師、彫師、摺師の協業体制を踏襲し、高品質な材料を用い、それまでにない複雑かつ華麗な彩色に「ざら摺り」など手摺りならではの技法を駆使するなど「新版画」を世に送り出し、昭和の初めに国内外で巻き起こる新版画ムーブメントの火付け役となった。

 本展では、新版画のルーツであり、新版画制作の精神をいまもなお受け継ぐ渡邊木版美術画舗の全面的な協力のもと、残存数が少ない貴重な初摺の渡邊版をとおして、その挑戦の軌跡をたどりながらモダンな精神に彩られた瑞々しい表現の魅力を紹介する。

会期:2024年7月20日~9月23日
会場:秋田県立近代美術館
住所:秋田県横手市赤坂字富ヶ沢62-46(秋田ふるさと村内)
電話:0182-33-8855
開館時間:9:30~18:00
休館日:月(祝日・振替休の場合は翌平日)

「生誕100年 山下清展―百年目の大回想」(新潟県立近代美術館

 2022年に生誕100年を迎えた放浪の画家・山下清(1922-1971)の展覧会が新潟県立近代美術館で8月18日まで開催されている。 

 東京・浅草に生まれた山下は、12歳で入園した八幡学園でちぎり絵と出合い、これを発展させた「貼絵」という独自の手法でその画才を大きく開花させました。1940年からは日本各地へ放浪の旅に出かけ、旅先で目にした風景を緻密な貼絵で制作。その完成度の高さから大きな注目を集めるようになります。以降、油彩や水彩画、マジックペンによるペン画、陶磁器の絵付けにも挑戦するなど、創作活動の幅はますます広がりをみせるが、「今年の花火見物はどこに行こうかな」という言葉を最後に、49歳でその生涯を閉じた。

 本展では、代表作《長岡の花火》をはじめとする貼絵を中心に、幼少期の鉛筆画、油彩、水彩画、ペン画、陶磁器などの作品約190点と関連資料を展示します。テレビや映画で紹介されてきたイメージとは異なる、芸術家・山下清の姿を紹介する。

会期:2024年6月29日~8月18日
会場:新潟県立美術館
住所:新潟県長岡市千秋3-278-14
電話:0258-28-4111
開館時間:9:00~17:00
休館日:月(祝日の場合は開館、翌平日が休館)
観覧料:一般 1300円 / 大学・高校生 1000円 / 中学生以下 無料

「遠藤彰子展 巨大画の迷宮にさまよう」(新潟市美術館

遠藤彰子 鐘 2007〜2008 個人蔵

 新潟市美術館で画家・遠藤彰子(1947〜)の半世紀にわたる画業を振り返る展覧会「遠藤彰子展 巨大画の迷宮にさまよう」が開催されている。

 遠藤は自身を取り巻く身近な事象をテーマにしながらも、その壮大な世界観で、見る者に圧倒的な印象を残してきた。「人間の存在」及び「いま生きている実感」を追求した油彩画は、縦3.3メートル×横7.5メートルに達する巨大画へと発展してきた。

 本展は約80点の作品を通して、その半世紀にわたる画業を振り返る。

会期:2024年6月22日~8月25日
会場:新潟市美術館
住所:新潟県新潟市中央区西大畑町5191-9
電話:025-223-1622
開館時間:9:30~18:00(※入館は閉館の30分前まで)
休館日:月、(ただし7月15日、8月12日は開館)、7月16日
観覧料:一般 1200円 / 大学生・高校生 900円 / 中学生以下無料

「ダリ版画展―奇想のイメージ」(長野県立美術館