戦後美術と写真の可能性を見直す。10月号新着ブックリスト
『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を紹介。2017年10月号では、近年開催された展覧会の関連書籍と、写真に関する書籍を取り上げた。
『静かに狂う眼差し─現代美術覚書』
DIC川村記念美術館のコレクションを美術批評家の林道郎が編集・再構成する企画展の関連書籍。画家のアトリエというトポスからマティスの絵画やポップアートの成立背景を探る「密室の中の眼差し」、非色彩=グレイを媒介にして1960年代以降の美術が抱えた問題系を切り開く「グレイの反美学」など、4つの章で構成。知られざるアメリカの画家、ジョン・マクロフリンに光を当てるなど、数珠つなぎ的に戦後美術の新しい読解の可能性を提示。(中島)
『静かに狂う眼差し─現代美術覚書』
林道郎=著
水声社|2500円+税
『森の探偵 無人カメラがとらえた日本の自然』
自称“自然界の報道写真家”宮崎学と、キュレーター小原真史の対話集。1960年代から日本各地の山や森、そして都会で暮らす動物を撮影してきた宮崎は、山間の野生動物の生態を通して自然界の営みを観察し、カラスやネズミの視点から都会の人間社会を考察してきた。無人カメラがとらえた動物たちの珍しい姿とともに、食物連鎖、被災地、獣害などの身近な話題をきっかけとして、宮崎独自の自然観・死生観が明らかにされる。(近藤)
『森の探偵 無人カメラがとらえた日本の自然』
宮崎学+小原真史=著
亜紀書房|1800円+税
『まっぷたつの風景』
せんだいメディアテークで昨年末開催された畠山直哉の展覧会の記録集。物事に簡単に白黒つけられないのと同様に、人間の表現に応じて姿を現す「風景」は美しさも不条理も含み込んだ多面体である。こうしたコンセプトのもと、1980年代前半の代表作《等高線》から3.11以降の「陸前高田」シリーズまで自作解説や展示風景とともに展観。いがらしみきお、志賀理江子との対談など、長い時間をかけて「風景」の変質を考える「言葉」の記録も充実。(中島)
『まっぷたつの風景』
畠山直哉=著
赤々舎|3800円+税
『写真技法と保存の知識 デジタル以前の写真─その誕生からカラーフィルムまで』
1839年に誕生したダゲレオタイプを皮切りに、現代まで技術革新を重ねてきた写真術。フランスにおける写真保存科学の第一人者による本書は、ヘリオグラフィーから発色現像方式まで、ポジとネガ、モノクロとカラー、支持体別に分類し、それぞれの歴史・製作法・ケアを詳解する。SNS上でデジタル写真が爆発的に増加し、消費されるいまこそ、フィルムや支持体の物質性と密接に結びついて発展してきた写真術の多様性を見直してみたい。(近藤)
『写真技法と保存の知識 デジタル以前の写真─その誕生からカラーフィルムまで』
ベルトラン・ラヴェドリン=著
青幻舎|5500円+税
(『美術手帖』2017年10月号「BOOK」より)