平面から空間へ、絵画から地図へ。今津景インタビュー
西洋の名画からSNS上の写真まで、インターネット上で見られる様々な画像データをPhotoshopで編集し作成した下図をもとに、キャンバスに油彩で描く手法を用いる今津。ANOMALYでの個展開催に合わせ、現在の拠点、インドネシアから帰国した作家に、同時に同じギャラリー内で個展を開催するアーティストの永田康祐が最新作を中心に話を聞いた。
新たな技術による新たな視覚
──今津さんの作品は色彩や視線誘導といったいわゆる絵画的な快楽やPhotoshopをはじめとするデジタルペイントツールのグリッチといったわかりやすいアイコンに目を奪われがちですが、実際には技法的にもモチーフ的にもかなり奇妙なことをやっていると思います。そこには一貫したアイデアというか、絵画を組み立てるための戦略のようなものがあるように思います。今回は、作品がどうやって組み立てられているかといった構造的なところに注目しつつ、それが今津さんのテーマとどのように結びついているのかについてお話を伺いたいと思います。
今津 表層的なイメージだけではなくて構造的な部分について考えたいというのは自分でもずっと思っていることです。絵画を組み立てるときに使うテクノロジーという点から言うと、私はゲルハルト・リヒターのように、写真をトレースしてペインティングするところから制作をスタートしました。私が大学に入った頃に日本でも、普及し始めていたPhotoshopを使ってみると、自分では計算や予測ができない効果が得られました。それをまた油画に変換することで、これまでの絵画史にはない視覚が生み出せるのではないかと考えました。そうしたテクノロジーがもたらす、新しい視覚をどんどん画面に取り入れようという軸はひとつあります。ただ、それを全面的に出したスマートな作品かというと少し違う。もっと自分のナラティブや感覚や生活環境といったものも入れたいなと思っています。
──いわゆるPhotoshopらしい、指先ツールの使用が画面に強く現れてくるのは2012年頃の作品からですよね。Photoshopで加工した画像を再度油画として描くという手法自体は、初期の頃からずっと一貫して用いられていたんですね。
今津 Photoshop自体は2000年頃から使い始めて、最初はハイライト以外をぼかして少し動きをつけるくらいでしたが、次第に指先ツールを全面に出す使い方にたどり着きました。その方法で、戦争や災害によって消え失せて、アーカイブされたイメージしか残っていないオブジェクトや人工物を崩すシリーズを制作していました。
──失われたオブジェのイメージをモチーフとして使いたいということが先にあって、そこから指先ツールの利用に結びついたということでしょうか?