「サイバー螺鈿」はなぜ生まれたのか? 工藝美術家・池田晃将インタビュー
金沢21世紀美術館のデザインギャラリーで個展「虚影蜃光」を開催中(〜9月18日)の工藝美術家・池田晃将。公立美術館では初となる個展では学生時代の作品から代表作「電光」シリーズまでが並ぶ。これを機に、国立工芸館工芸課長の岩井美恵子が、池田の制作に迫った。
きっかけとなった「工芸未来派展」
──金沢21世紀美術館での個展、おめでとうございます。私は池田さんの活動を初期の頃から追いかけていますが、以前、2012年に同じ金沢21世紀美術館で開催された「工芸未来派展」で工芸の可能性を見出したと仰ってましたよね。そこで個展ができることになったのは感慨深いのでは?
僕は工芸家に属していますが、「工芸未来派展」を見るまでは自分の目に飛び込んでくるものは現代美術の展覧会が多く、漆を表現媒体として制作するのは難しいなと思ったこともありました。東京藝術大学の先端芸術表現科に行こうと思っていた時期もあったくらいです。でも未来派展で、工芸でありながら現代の日本美術になり得る可能性を感じたんです。
──高校の頃には建築を勉強していらっしゃいました。そこからなぜ金沢美術工芸大学の工芸科に?
建築家になるのかなとぼんやり考えていたのですが、とても不真面目な学生だったので将来を決めてはいなかったんです(笑)。転機は高校時代、ネパールにボランティア団として測量に行ったことですね。そこでは日本とは異なる文化、宗教が生み出す装飾が人々の生活に自然に溶け込んでいて、それを生み出す力(オーラ)はなんなんだろうと感じたんです。そこでストラクチャーより装飾的なものに興味を持つようになり、美大で木彫をやろうと決めました。入学した金沢美術工芸大学は木彫と漆を同時に教えてくれる場所で、螺鈿などの装飾技法もそこで知ったんです。
ですがここでも壁にぶち当たって......。宗教や権力によって生み出された美的表現という行為自体がいまの時代に必要なのか、あるいはそもそも「可能なのか」と疑問に感じたんです。例えば三十三間堂をいまの時代につくろうと思うと膨大な時間と資金が必要ですよね。社会構造として難しい。そうした現実があるいっぽうで、僕は自分が受けた感動を、自らの手で生み出したいという気持ちも強かった。
そんななか、大学3年生のときに金沢21世紀美術館で開かれたのが「工芸未来派展」で、こんな時代でも好きなことを追及して時間をかけてものをつくる人たちがいる、ということは大きな励みとなりました。技術や完成度や密度がそのまま表現になるんだと。