鳥取県立美術館館長・尾﨑信一郎が語る、人口最小県の美術館だからこそできること
2025年3月30日、人口最少県である鳥取に新たな美術館「鳥取県立美術館」が開館する。人口減少社会のなか、なぜいま新しい美術館が生まれるのか? 館長・尾﨑信一郎にその意義を聞いた。
美術館という「場所」がある重要性
──日本でもっとも人口が少ない県である鳥取県。鳥取県立博物館の美術部門が独立し、来年、初めての県立美術館ができるわけですが、いまなぜ鳥取県立美術館が必要なのか。これをまずお聞かせいただけますか?
私はもともと地元が鳥取市で、高校まではこちらに住んでいました。大学で初めて関西に行き、そこで美術を知り、初めて美術館に行ったのです。それが兵庫県立近代美術館(現在の兵庫県立美術館)でした。ここは私が最初に勤めることになる館となりましたが、いまでも、「美術館という施設があるんだ」という非常に強い感銘を受けたことを覚えています。それまで鳥取には類似する施設はあったものの、これほどの規模の美術館はなかった。つまり、美術館という空間、その雰囲気を知らなかったわけです。
それから40年の時を経て、ようやくここの美術館ができました。それまで鳥取県民は当時の私のように、県外に行かない限り美術館という様々な表現が展示されている場所の空気を浴びるということはなかった(もちろん博物館はありましたが)。当館は県立美術館としてはかなり後陣ではありますが、やはり、美術館という施設があることの重要性は高いわけです。
我々はコンセプトに「OPENNESS!(オープネス)」を挙げており、建築を見てもフリーゾーンが多い。それはつまり、「美術館に行って作品を見なくてもいい」ということです。美術館の空気をみんなが自由に来て、感じることがまずは大事なのです。世代も価値観も関心も違う人たちが集える場をつくったということに非常に意味がある。
──収益についてはいかがでしょうか。館長がこれまで務めてきたような大都市の美術館であればある程度収益とかも見込めると思いますが、事情は違いますよね。