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2025.2.19

「文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業」の成果発表「ENCOUNTERS」会場レポート。拡張する技術とアートを体感する

「文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業」の成果発表イベントとして「ENCOUNTERS」が今年も開催されている。会期は2月24日まで。出展作品をピックアップしてレポートしたい。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、藤堂高行《鎖に繋がれた犬のダイナミクス》
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 文化庁が2011年度より実施している「文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業」の成果発表イベントとして「ENCOUNTERS」が東京・京橋の「TODA HALL」と「 CONFERENCE TOKYO」で開催されている。会期は2月24日まで。

展示風景より、石橋友也《Self-reference Microscope》

 「文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業」とは、文化庁が若手クリエイターの創作活動および発表機会を支援するプログラムだ。各分野に応じた適切な評価・助言ができる識者をアドバイザーとし、採択されたクリエイターが次のステップへと進む機会を提供する。ここで採択されたクリエイターが制作中のプロトタイプの展示やデモンストレーション等を実施し、成果を発表するのが「ENCOUNTERS」だ。

展示風景より、安西剛《Giant Micro Plastic》

 今回から「ENCOUNTERS」の会場は昨年11月に開業した、「TODA BUILDING」内にある「TODA HALL」と「 CONFERENCE TOKYO」に変更。潤沢な展示スペースを利用し、各作家のデモンストレーションをより体感しやすくなったのが特徴だ。会場で見ることが出来る、おもな展示作品をピックアップして紹介したい。

展示風景より、阿部和樹《手描きの計算》

 大阪を拠点にする2003年生まれの若手アーティスト・松枝熙は、「超家」「路上藝術協会」、アートコレクティブ「BLLLE!」の活動などを通じて、社会や労働、民俗や路上などにおける私共性や無意職のつながりを表現している。出展作《みんなとてもあいまい》は、路上で個人が展開する園芸に着目したことが発想源となったインスタレーション/パフォーマンスだ。都市の雑草を人口の草に置き換えることで、都市の管理された景観と自然の乱雑さの境界をゆるがす。

展示風景より、松枝熙《みんなとてもあいまい》

 サウンド・アーティストの丸山翔哉が手がけた《野生のオーケストラが聴こえる》は、ゲーム内でフィールドレコーディングを行い、多様な音響世界を探索することを通じて、プレイヤーとは異なる存在の聴取を体験する「多元的聴取」をテーマとする作品。会場では実際にプレイヤーによって採集されたサウンドを聴くことができる。

展示風景より、丸山翔哉《野生のオーケストラが聴こえる》

 生物の機能や感覚を組み合わせて新たな感覚の創出を試みる、アーティストの滝戸ドリタ。《Efficiency of Mutualism, Energeia Cycle 分解と循環のエネルゲイア》は、微生物による燃料電池、光合成を利用する藻類電池、そして水の電気分解による燃料電池といった、複数の電池を組み合わせた作品だ。発電された電気は植物へと還流し、その微弱な電気刺激を介した植物の成長促進を試みており、さらに作品に取り付けられたハンドルを回し発電を促すことで、鑑賞者は植物の成長に関与することができる。

展示風景より、滝戸ドリタ《Efficiency of Mutualism, Energeia Cycle 分解と循環のエネルゲイア》

 写真作家・片桐正義は、警察の鑑識に用いられる粉末を被写体に付着させて写真を撮ることで、撮影時点よりも過去の時間に存在した「被写体に触れた痕跡」を可視化する作品《Trace 2022-2024》を出展。会場には被写体と写真がインスタレーションとして構成されており、片桐が写真で表現する多重的な時間軸を体感できる。

展示風景より、片桐正義《Trace 2022-2024》

 木原共による《演画》は、マンガのなかで、複数のプレイヤーと文章生成AIがキャラクターを演じながら、一緒に物語をつくり上げていくゲームシリーズだ。プレイヤーの発言はマンガの吹き出しとして反映され、それに対して文章生成AIが演じるキャラクターが大規模言語モデルを通して応答するという構造で、ロールプレイで遊べるマンガの新たな形式を提案している。

展示風景より、木原共《演画》

 アニメーション作家の大高那由子が制作したのは、2人の息子が織りなす日々の様子を、アニメーションによって「記憶」し「記録」した作品《「記す」アニメーション》だ。子供たちの行動を日記から抽出し、作家の記憶から再構築し描くことで、動画や文字には残せなかったものの記録を試みており、アニメーションによってしか表現できない領域を模索している。

展示風景より、大高那由子《「記す」アニメーション》

 山梨・笛吹市の一宮町を拠点とするヒップホップ・クルー「stillichimiya」は、映像制作班・スタジオ石の、映像プロジェクト『ZOKU』の第1弾作品《stillhualian》を制作。台湾原住民の文化を引き継ぐヒップホップ・アーティストたちの思いや生き方を記録し、ともに楽曲を制作し、生み出された音楽をライブで鑑賞者が「体感」するまでを作品にする試みだ。

展示風景より、スタジオ石《stillhualian》

 アート・アンプリファーとして国内外でアートプロジェクトを手がけてきた吉田山は、「私と公の中間にある『窓』」をテーマとした移動型アートプロジェクト「風の目たち」を各地で展開。5センチメートル立方に収まるポータブルな作品とAR作品をギリシャや東ヨーロッパ各地の窓辺に恒久設置し、それをアーカイヴしていく。このアーカイヴをもとに、AR機能つきの書籍の刊行も行った。

展示風景より、吉田山「風の目たち」

 「ロボットをいかに人たらしめるか」というテーマを、おもに視覚からのアプローチによって展開してきたアーティストの藤堂高行は、人に襲いかかろうとする自律ロボットを、鎖に拘束した状態で展示するインスタレーション《鎖に繋がれた犬のダイナミクス》を出展した。四足歩行の犬を思わせる自律ロボットは、枠外の鑑賞者に向かって飛びかかってくるが、鎖によって引き戻され、転び、しかしまた立ち上がる。ここに恐怖を感じるのか、あるいは憐憫を感じるのか、その由来を問うことこそが、藤堂の狙いといえるだろう。

展示風景より、藤堂高行《鎖に繋がれた犬のダイナミクス》

 「文化庁メディア芸術祭」の終了以降、その流れを汲んで規模を拡大させ、制作/発表の支援に目を向けたプロジェクトとして発展してきた「文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業」。今回の「ENCOUNTERS」はその規模、質とともに、この取り組みの成果が目に見えてわかり、多くの人の鑑賞に耐える構成となっていた。本事業が育成するクリエイターたちの今後の表現に、期待が高まる。

 そのほかの創作支援プログラムの出展作家は以下。阿部和樹、安西剛、池添俊、石橋友也、榊原寛/畳部屋、実験東京(安野貴博+山根有紀也)、深谷莉沙、Media of Langue(代表:村本剛毅)、森田崇文、渡部恭己。

展示風景より、森田崇文《MorphFlux》

 発表支援プログラムの出展作家は以下。岩竹理恵+片岡純也、紀平陸、さんや駄々、芹澤碧、對中優、辻梨絵子、長島勇太、永田康祐、ヌマタ/沼田友、花形槙、原田裕規、韓成南、松井美緒、水落大、Mizuki Ishikawa+Shun Momose、持田敦子、諸星智也、山口塁、油井俊哉、吉田裕紀、渡辺真也+宇多村 英恵。

展示風景より、ヌマタ/沼田友《(実在しない)切り抜きチャンネル
『20分でわかるエマ・リーランド』》