美術手帖 2018年12月号
「Editor’s note」
11月7日発売の『美術手帖』 2018年12月号の特集は「アート×ブロックチェーン」。編集長・岩渕貞哉による「Editor’s note」をお届けします。
今号は「アート×ブロックチェーン」特集です。この企画の検討を始めた今年の春は、コインチェック社によるアルトコインNEMの流出事件がまだくすぶっていた頃で、仮想通貨の投機性や安全性が取り沙汰されていた。いっぽうで、仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーンについては、仮想通貨にかぎられるものではなく、金融を中心に様々な分野を劇的に変える可能性があると指摘されていた。書店に行けば特設コーナーがあり、「ブロックチェーン革命」の文字が踊っている。
インターネット以来の衝撃とされるブロックチェーンは、情報をデジタルな台帳に記録していくシステムであり、その記録は管理を担う機関を必要とせず分散的に運営されながらも信頼性が保たれ、また事実上改ざんができない仕組みを技術的に実現している。いわば、中央集権的な権力や権威ではなく、システム自体がそこにある情報の信頼を担保することになる。
それでは、この技術=ブロックチェーンはアートの世界をどう変えるのか? このシンプルな疑問が本特集の出発点である。といっても、企画時点では、海外ではいくつかサービスが始まっていたものの、日本で目立った動きは見られず、アートとブロックチェーンの議論も多くなかった。が、そんな状況を一変するようなニュースが7月5日に飛び込んでくる。「アートの課題をテクノロジーで解決する」と掲げるスタートバーン社が、東京大学系のベンチャーキャピタルのUTECを引受先とする第三者割当増資で約1億円を調達したというものだ。注目されたのは、来春正式オープンを目指す「アート×ブロックチェーンネットワーク」の構想である(特集内で代表の施井泰平らに話を聞いている)。
そこから、リサーチを進めていくと、「アート×ブロックチェーン」に関わるいくつかのサービスが、来春のローンチに照準を定めていることがわかった。2019年は日本における「アート×ブロックチェーン元年」となるのだろうか? ただし、現在進められているプロジェクトは、アートマーケット、とくに作品の証明書発行と来歴管理による市場の透明性を図るものや二次市場での取引利益をアーティストへ還元するといったものが多い。この、よりオープンなアートマーケットへの志向は、もちろん進めていくべきだろう。しかし、「アート×ブロックチェーン」の可能性は、果たしてそこに留まるものだろうか。それを、みんなで考えていく一助になればと、「未来の価値をつくるのは誰か?」というサブタイトルを付した、本特集をお届けします。
2018.10
編集長 岩渕貞哉
(『美術手帖』2018年12月号「Editor’s note」より)