2024.6.27

「ポンピドゥー・センター2030」とは何か? 日仏アーキテクトによる大規模改修案に注目

フランス・パリにあるポンピドゥー・センターが、史上もっとも大規模な改修工事を2025年からスタート。その設計者に、パリ拠点のモロークスノキ建築設計が選ばれた。

文=飯田真実

ポンピドゥー・センターの前庭「ラ・ピアッザ」からの正面外観(3Dイメージ)。センター附属施設であるフランス国立音響音楽研究所(Ircam)や、1983年にジャン・ティンゲリーとニキ・ド・サンファルによって制作された《ストラヴィンスキーの噴水》などがある南側(写真の右側)からもアクセスしやすくなる
© Moreau Kusunoki in association with Frida Escobedo Studio
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 約半世紀前に建てられ老朽化するフランス屈指のアイコニックな近代建物を保存しつつ、現在の環境・健康・エネルギー基準に応じた安全性を確保し、持続可能な開発を可能にさせ、アクセシビリティ等の問題を解決する──ポンピドゥー・センター史上もっとも大掛かりな改修工事が2025年から始まる。そのインフラ改修(予算案では「技術部門」と呼ばれる)と並行して実施される建築の改修(「文化部門」)を担当する建築家のコンペティションが行われ、パリ拠点のモロークスノキ建築設計がメキシコのフリーダ・エスコベド・スタジオを共同デザイナーとして応募した案が選ばれたことが、6月20日の記者発表会で明らかになった。

ポンピドゥー・センター館内・中2階「メザニン」からの眺め(3Dイメージ)同館周囲に広がるパリの都市風景を取り込みながら、地上階の交流スペース「フォーラム」と、映画上映室等もある地下階「アゴラ」まで、光と動線がつながるようになる
© Moreau Kusunoki in association with Frida Escobedo Studio

「ポンピドゥー・センター2030」とは?

 1969年に仏大統領に就任したジョルジュ・ポンピドゥーの構想を受け、77年パリの中心部でありながら更地になっていた場所に開館した文化複合施設ポンピドゥー・センター。各階約7500平米、地上階に加え上に6フロア、地下に1フロアある建物の異なる階で複数の企画展と所蔵作品展を開催する国立近代美術館、開架と閉架の2つの図書館、収容人数の異なる2つの映画上映室、舞台公演用と講演用のホール、カフェ、レストラン、本屋などがあり、それぞれにつながる動線をたびたび変えたり、近年も正面ファサードに伸びるエスカレーターが修繕されたりしたが、建設時に使われたアスベストや熱効率などが問題視されていた。2020年、より多くの来場者や若者層を迎えることにも重点をおいたプログラムへの適合のためにも館の構造や機能を改善すべく、大改修計画が合意された。入念な事前調査を行い、センターを完全閉鎖して工事を行うほうが、開館しながら行うよりも費用やリスク管理上望ましいと結論づけられ、必要な期間は施設の段階的閉鎖から工事期間を含むと約5年と見込まれた。

 この大改修計画は、再オープン予定年を掲げた「ポンピドゥー・センター2030」と名づけられ、当初からその技術面を支えてきたAIAライフデザイナーという仏企業による方針と連携しつつ、昨年5月には同施設を文化面から再構築できる建築家を対象としたコンペが実施された。イタリアのレンゾ・ピアノとイギリスのリチャード・ロジャースによって設計されたポンピドゥー・センターの象徴的な建物のDNAを保存することは不可欠であるとし、 増改築等は行わず現在の建築様式を尊重し、環境に配慮すること。前庭「ラ・ピアッザ」とそこにブランクーシのアトリエを移設した際の建物をはじめ、既存の施設を新しい文化的・社会的スペースに変えること。また、同館内にあるフランス国立近代美術館はヨーロッパ最大の近現代美術コレクションを誇るが、その学際的な精神を再確認しつつ展示方法の見直しや、鑑賞者のより開かれた受け入れに対応する機能を持たせること。現場の労働条件の改善もこの改修の重要な要素とされている。

前庭北側にある小ぶりな建物内で再現していた彫刻家ブランクーシのアトリエはセンター内のコレクションスペースに、館内にあった美術の専門資料を閉架で扱う研究者向け「カンディンスキー図書館」はこの建物内に移動する。
© Moreau Kusunoki in association with Frida Escobedo Studio