美術手帖 2017年6月号
「Editor’s note」
5月17日発売の『美術手帖』 2017年6月号は、大山エンリコイサムの監修によるグラフィティ特集「SIGNALS!」。編集長・岩渕貞哉の「Editor's note」をお届けします。
今号の特集「SIGNALS!」は、監修をアーティストの大山エンリコイサムにお願いしています。そもそも、この企画自体が大山の提案から始まっており、全篇にわたって彼のこれまでの活動や研究から、グラフィティ文化やストリート・アートにたいする問題意識までが反映されたものとなっている。
実は、大山氏とはちょっとしたエピソードがある。2012年に「REAL TIMES」という特集を「Chim↑Pomプレゼンツ」でつくった際、その表紙を見たニューヨーク滞在中の大山(少し協力してもらっていた)から、全面的な肯定ではない反応をTwitter上でもらい、それをきっかけにTwitterのDMでやりとりをして、雑誌を送って読んでもらったということがあった。「REAL TIMES」特集は、バンクシーやヴォイナなど、都市のストリートやメディアを舞台に、時に過激な手法も厭わず社会の変革を試みて行動するアーティストを取り上げたもので、大山の主戦場であるグラフィティ文化やストリート・アートも一部含まれていた。ただそのときは、ストリート・アートの過激な面がフックアップされたことに違和感を感じているのかなと思ったものの、その真意は掴めずじまいで気になっていた。その後、大山は、2015年にグラフィティ文化論をまとめた『アゲインスト・リテラシー』を上梓、アーティストとしても国際的に頭角を現していくことになるが、本特集には、「REAL TIMES」への応答も含まれているのかもしれないと個人的には感じている。
この特集は、1960年代末にニューヨークで勃興したグラフィティ文化について、視覚言語としての発展を担ってきた作家・作品をたどりながら、人類史の中のグラフィティ(落書き)の系譜や絵画史・現代書といった隣接する分野へとつないでいくことで、その表現の原理を探り出そうという企画である。そして、「グラフィティ(落書き)の想像力」を串刺しにしようと、「SIGNALS」という言葉が今回生み出された。今後「SIGNALS」という概念は、誌面でのアイデアにとどまらず、展覧会や書物等を通じて、練りこまれ、磨かれていくことだろう。
思えば、村上隆は「SUPERFLAT」という概念を生み出す直前に、そのコンセプトを雑誌の特集企画として提出している(『広告批評』1999年4月号「TOKYO POP」)。本特集で大山が提出したヴィジョンが、グラフィティ文化に新たな価値付けをおこない、文化の表現史や美術史の中で重要な位置を占めていく、その端緒となるとすれば、これに勝る喜びはない。「SIGNALS! 共振するグラフィティの想像力」は、そんな特集です。
2017.05 編集長 岩渕貞哉
(『美術手帖』2017年6月号「Editor's note」より)