日本と世界の芸術系大学が垣根を越えて一堂に会する。そんなこれまでにない試みをご存知だろうか?
それが今回で5年目を迎える「ファインアート・ユニバーシアード U-35展」だ。これは、絵画、版画、彫塑、書の美術分野で活躍する国内外の若手作家の作品展。2013年度から4回にわたり開催された新進芸術家育成交流作品展「FINE ART / UNIVERSITY SELECTION」を前身に、今年度から新たな名称で再スタートを切った。
本展は、国内外の大学ネットワークによって、国や大学といった既存の枠組みを超えた作品交流を実践する取り組み。国内の大学76校と、国外の大学18校にそれぞれ出品作家の選考を委託し、各大学の卒業生・修了生の中から選ばれた概ね35歳未満の作家の作品が会場の茨城県つくば美術館に一堂に会した。
「ファインアート・ユニーバシアード U-35展」の会場風景 117名が参加した本展では、とくに優秀な出品作品に賞を授与。その受賞作が1月13日より東京のアーツ千代田3331で開催の関連展覧会「新進芸術家選抜展FAUSS」(16年度「FINE ART / UNIVERSITY SELECTION」の受賞者作品展)の会場内にて巡回展示される。
今回、優秀作品賞となったのは財田翔悟(絵画)、山本雄教(絵画)、野村真弘(絵画)、佐藤麻依子(版画)、市川絢菜(版画)、設樂陽香(彫塑)、廣木知佳(書)の計7名。
財田翔悟(東北芸術工科大学推薦) 最初から 2017 「今回の作品はひとつの場面ではあるものの既視感により過去の記憶を思い起こすような多次元のレイヤーを想起できる感覚を得られる作品にしたいと思いました。一見、よく見られる光景の中にこそ幸福が潜んでおり、その幸福に人は度々出会っています。当たり前すぎて気づけないことも多々ありますが、その瞬間こそが人を豊かにするのです」 山本雄教(成安造形大学推薦) 582円の男 2017 「一円硬貨のフロッタージュによりドット絵のように自身の立像を描いた作品です。タイトルは使用している硬貨の枚数を反映しており、人間の価値、自分自身の価値を自虐的に表しています。また数字の1が並ぶことによるデジタルなイメージと、モザイクのようなおぼろげなビジュアルにより、今を生きる人間の存在の希薄さを表すことができないかと考えました。そして硬貨のフロッタージュ自体が、私たちの存在や行動の対価となる通貨の抜け殻のような姿でもあります」 野村真弘(和歌山大学推薦) ぼくらの毛のもの(フランケンシュタイン) 2017 「私自身の自然観の表出を動機とし、毛皮の形態を借りて表そうとしたものです。アクリルに毛生地の毛面を接着し、ナイフによって剥がしていくことで作り上げていきます。作られた毛皮であり、ゆえにフェイクレザーやフェイクファーと似たものであるように感じます。人工的なものを通して、私達は自然や、伴う風景を、実際の所どのような実感でもって接しているのか、という点を浮き彫りにさせたいと思っています」 佐藤麻依子(宮城教育大学推薦) 塔楼ノ巣 2017 「私の使用している板紙凹凸版は、光沢白ボール紙を版に用いた技法です。まだまだ知名度も低く、発展途上の技法ですが、これを用いた作品を評価して戴けたことを嬉しく思います。以前から複雑な構造の鳥巣に魅力を感じ制作しており、本作ではピーテル・ブリューゲルの『バベルの塔』に感銘を受け、リアリティのある細密表現と幻想的な世界観の両立を目指し、取り組みました」 市川絢菜(筑波大学推薦) フェイスカバー 2017 「作品をみてもらえて単純にありがたいという気持ちが強いです。自分の作品については煮え切らない部分も多く、これからの課題だと思っています。しかし、『色の対比やテクスチャのスケールの対比など、いくつかの対比の組み込み』について評価していただいた部分に関しては、これまで私が制作において大切にしていたところであったため、少しの自信にもつながりました」 設樂陽香(東北芸術工科大学推薦) wood skin 2017 「私はファッションに関わる美意識を表現した作品制作を行っています。様々な美意識があるなかで、『粋』という江戸時代の厳しい規則のなかで生まれた美意識に興味があります。江戸時代と違い、ファッションがとても自由な現代で『粋』という美意識はどのようなかたちで残っているのか。本作は、ファッションにおける肌の見せ方を木に落とし込みました。彫った溝のトップを着彩することで、木目が一つの固まりではなく、ラインの下に透けて見えるような効果を出しています」 廣木知佳(新潟大学推薦) 蘇軾句 2017 「この数年は主に金文(青銅器に鋳込まれた銘文)の字形を用いて継続的に作品制作に取り組んでおり、今回発表した作品もそのひとつです。金文は文字の造形が非常に魅力的で楽しく制作に取り組める反面、そこには古い歴史に伴う様々な解釈や、現代における表現方法の是非があり、より一層の学習や追究が必要であることを、いつも痛感させられます」 また、国際特別賞としてオリビア・ペッタション・フレールが、オーディエンス賞としてアレクセイ・ペレペルキンが選出されている。
国際特別賞 オリビア・ペッタション・フレール(スウェーデン王立美術大学推薦) Checked-in luggage sized painting in four parts mounted on towel hanger 2017 オーディエンス賞 アレクセイ・ペレペルキン(サンクトペテルブルク美術大学推薦) Virineya 2017 審査員を務めたのは、玉川信一(画家、筑波大学副学長・芸術系教授)、北澤憲昭(美術評論家、美術史家)、富田淳(東京国立博物館学芸企画部長)、野口玲一(美術評論家)、ダリウシュ・ヴァスィーナ(イラストレーター、画家、グラフィックアーティスト、クラクフ美術アカデミー准教授)の5名。
審査委員長の玉川信一は、今回の選考について「展示作品全体を俯瞰してみると、前回に比してそれぞれの地域性や時代性がより反映され、多様性が増してきたように思います」とコメント。「各大学を卒業し活躍する若手の表現者を各大学自身が推薦する形式の本展覧会において、その多様性そのものが価値を持っているにもかかわらず、この一堂に会する場で優劣がごとき賞を選考することは正鵠を射ているとは言い難いのではと感じています」としながらも、「芸術表現を一様のスケールで解釈することはできませんが、回数を重ねることによって、この事業が若い表現者の目指す指標の一つになってほしい」と今後への期待を語っている。
芸術系大学の連携のひとつの成果である「ファインアート・ユニバーシアード U-35展」と「新進芸術家選抜展 FAUSS」。本展は、その現在形を東京の中心地で確かめる良い機会となりそうだ。