3331でアートを買おう。
過去最大規模の「3331 ART FAIR」が開幕
東京・外神田にあるアーツ千代田3331を会場に、毎年開催されているアートフェア「3331アートフェア」が7回目の開催を迎えた。同フェア恒例となった「コレクター・プライズ」をはじめ、過去最大規模となった今回の見どころをお届けする。
「3331 ART FAIR」は、東京・外神田にあるアートセンター「アーツ千代田 3331」(以下3331)が主催となり、毎年開催しているアートフェア。アートコレクターや企業人、クリエイターなどが「プライズセレクター」としてフェアに参加し、それぞれが購入した作品に「コレクター・プライズ」を授与するという独自のシステムで、これまでにないアートフェアのかたちを築いてきた。
第7回の開催となる今年は、1階のメインギャラリーをはじめ、体育館、教室エリア、屋上など、3331の施設全体がアートフェアに参加する過去最大規模のもの。5日間にわたって開催される本フェアを各エリアのハイライトとともに紹介する。
|メインギャラリー
メインギャラリーは、神谷幸江(ジャパン・ソサイエティニューヨーク ギャラリー・ディレクター)や土屋誠一(美術批評家、沖縄県立芸術大学准教授)、鷲田めるろ(金沢21世紀美術館キュレーター)といったキュレーター、批評家、あるいはGallery OUT of PLACE TOKIOなどのギャラリーが推薦する気鋭のアーティストの作品が並ぶ展覧会形式の会場だ。
写真家としても勢力的に活動する都築響一は、スナックで気持ちよさそうに歌う享楽的な男女や、場末のラブホテル、秘宝館などをとらえた写真作品など、これまでの展覧会で発表してきたプリントを販売。代表作の写真集『TOKYO STYLE』をUSB版で再版したものも販売する。都築作品を「破格」で購入できるチャンスだ。
泥を用いた大作で、近年活躍が目覚ましい淺井裕介。壁を埋め尽くす巨大な泥絵から一転、今回は色鮮やかな小さな油彩画やドローイングを出品する。販売している作品だけではなく、壁に描かれた可愛らしい動物たちにも注目。
「都市空間における表現の拡張」をテーマに、様々なアーティストのキュレーションを行っているユニット「SIDE CORE」は、軽トラックを会場に持ち込んだ展示で異彩を放つ。軽トラックの荷台では、ZINE(ジン)を取り扱う大阪のストリートアーティスト・STANGによる《ZINE SWAP MEET CAMP》の展示と、EVERYDAY HOLIDAY SQUADの《巡礼 ROAD SIDE》を展示。実際に手に取って購入もできるZINE(ジン)と、東京と福島のライブカメラを用いた映像で、第三者的な目線をもって都市空間への隙間へ介入していく《巡礼 ROAD SIDE》は好対照をなしている。
建築設計事務所「dot architects」は、これまで設計してきた建築やインスタレーション作品の中から特徴的な柱を取り出し、10分の1サイズのマケット(建築模型)にして出品している。
|体育館エリア
2階の体育館エリアでは、日本国内外から集まったギャラリーやオルタナティブスペース、大学がブース形式で作品をプレゼンテーションする、いわばこのフェアの核となる存在だ。
北海道・札幌で現代美術を発信し続けるCAI現代芸術研究所は、高橋喜代史、石倉美萌菜、今村育子、笠見康大の4名の作品を紹介。高橋の「ドーン」というマンガの擬音語をオブジェにした作品や、石倉が自身の日記をすごろく調に描いた作品といったユーモアのある作品などを展示。北海道を拠点に活動するアーティスト達の表現を楽しみたい。
広島にあるギャラリーGが展示している、岡部昌生、清原亮、黒田大祐、丸橋光生の作品は、いずれも広島の地にまつわるものだ。岡部が見せるのは被爆樹木のフロッタージュ。ドット絵のような清原の油彩画は、きのこ雲や原爆ドーム、広島で平和を象徴する花として親しまれている市の花・キョウチクトウをドットで表現する。広島出身の清原は「きのこ雲という惨状を生んだ存在は、その姿だけを切り取って見るとかっこいい。そのギャップも描きたい」と語る。
また、アーツ千代田3331のブースでは、中村政人や佐藤直樹らの作品を展示。3331の統括ディレクターである中村の作品は、自動車の車体を製造する技術を用いた自動車ペインティングシリーズと、同作のドローイングを展示。フェアと同時期に、3331内の別展示室で個展を開催している西村雄輔は、日本と西洋それぞれのハエ取り器をモチーフにした作品が異彩を放つ。
2004年8月より有志の作家による共同所有という形式によって 東京・両国にてスタートしたアーティストランスペース・アートトレイスギャラリー。今回は400円払うかツイートをするかをすると好きなカードを選んで綴じ、小冊子にして持ち帰ることができるというユニークな取り組みを行っているほか、ぬいぐるみを用いたインスタレーション作品を展示している。
これまで、体育館エリアの出展者はギャラリーが中心だった。しかし今回はこれに加え、武蔵野美術大学や秋田公立美術大学、愛知県立芸術大学、東北芸術工科大学、多摩美術大学が運営するアキバタマビ21など、全国各地の美術大学が軒を連ねる。これは、アーツ千代田3331代表・中村政人の「学校ブースも作品の紹介だけではなく、販売も行うことで美術教育の現場でも市場のことも教えられるようになれば」という考えに学校が賛同し、参加した結果だ。
2013年に開学した秋田公立美術大学は、既存の美術大学とは異なる専攻区分を持ち、新しい芸術領域の創造に挑戦をしている。その大学の精神のとおり、今回展示されている作品のひとつは秋美生物部の学生たちによる「美術解剖学プロジェクト」という一風変わったプロジェクトの成果。岩手県の猟友会から譲り受けたという鹿を解剖し、毛皮や骨格、解剖までの道のりが紹介されている。同プロジェクトに参加している学生たちは大学からの助成金を受けており、様々な動物の解剖を行い、標本作りや美術と博物学を融合させた展示を行っているという。そのほか、同大学のブースでは吉田真也の映像作品や、藤本尚美の立体作品を見ることができる。
|教室エリア
3331に入居するギャラリーや各団体による展覧会も見どころのひとつ。今回のアートフェアに合わせて、各ギャラリーでは趣向を凝らした企画展が開催されている。
Gllery KIDO Pressでは、「現代の神話」をテーマに制作する鴻池朋子の個展がスタート。絵画や彫刻、アニメーションなど多様な表現を用いたインスタレーションで知られる鴻池だが、今回はドライポイント(銅版画)とカービング(板彫刻)という2つのアプローチから制作された作品を発表している。
また、佐賀町アーカイブでは野又穫展を見ておきたい。実在しない建造物をモチーフとした絵画などで知られる野又穫。本展ではこれまでも野又が幾度か描いてきた巨大なバルーンをモチーフにした作品を展示。平面の中に表現された壮大なスケールに注目。
「光」への関心から、蛍光塗料やディスプレイを用いた作品を発表するHouxo Queは、Gallery OUT of PLACE TOKIOで個展を開催中。iPhoneやiPadといったデバイスを支持体に描く新作シリーズを展示。デバイスはつねにインターネットとつながった状態で展示されSiriが語り続けかける展示室は、鑑賞者が作品を見ると同時に、「向こう側」からも見られているような状況をつくり出している。
|屋上エリア
普段は一般公開されていない3331の屋上にも作品が展示されている。
ここでは彫刻家で東京藝術大学准教授の森淳一によるセレクションを楽しみたい。作品を見せるのは山内祥太、伊藤純代、井田大介の3人。カオス*ラウンジ新芸術祭(2015、2016)などに参加してきた彫刻家・井田大介は、数点の彫刻作品と映像作品の他に、蜜蜂を用いたインスタレーション《ただいま、ハニー》を見せる。
1階ウッドデッキ、カフェ、地下1階など
3331に入館する際必ず通るウッドデッキや、1階のカフェ、あるいは地下1階の共有部にも作品が展示されている。ウッドデッキには中村政人の巨大オブジェが来場者を歓迎するほか、地下1階の廊下では、昨年の個展でも話題を集めた佐藤直樹の植物を描いた作品がずらりと並ぶ。こちらも忘れずにチェックしたい。
過去最大規模となった「3331 ART FAIR」。多くの作品を楽しみながら、お気に入りの一点を見つけてみてはいかがだろうか。