池田亮司がポンピドゥー・センターで見せる黒と白の部屋。「continuum」が開催中
フランス・パリのポンピドゥー・センターで、視覚メディアとサウンドメディアの領域を横断する電子音楽家にしてビジュアル・アーティストの池田亮司による個展「continuum」が開催されている。本展のために制作された2つの新作インスタレーションで、池田は何を表現するのか? 同館ニューメディアコレクション主任学芸員キュレーターのマルチェラ・リスタに聞いた。
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ポンピドゥー・センターのエントランスをくぐり、すぐ右手にあるGALLERY3。ここが池田亮司の個展「continuum」の会場だ。
「連続体」を意味する「continuum」と題された本展を構成するのは、ともにこの個展のために制作された新作のインスタレーション2作品。
まず来場者を圧倒するのは、真っ暗な空間に設置された巨大なスクリーンと、そこに映し出される無数のコードだ。ポンピドゥー・センター ニューメディアコレクション主任学芸員キュレーターのマルチェラ・リスタによると、本作《code-verse》は、池田の「コードをつかって詩を表現したい」という考えがもとになっているという。
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もととなるデータがあり、そのデータがコード化され、文字列になり、その文字列がバーコードや0と1などに変換され、3次元的な空間になっていく。「池田がいま考えているのは、データはどれだけすごいのかということです。データの無限の可能性ですね。ここではそのデータを体感してほしい」。
池田自身が独自のアルゴリズムを制作し、コードによって音と映像をつくった。データの種類などは明らかにされていないが、本作において、池田はデータを抽象化させることを目指したのだという。
次々に形や動きを変え、スクリーンを自由自在に動き回る無数のコード。奥行きすら感じられるその作品に、多くの鑑賞者が見入っていた。
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いっぽう、《code-verse》の奥にある部屋は、まったく対照的な白の空間だ。ここに設置されているのは5台の巨大なスピーカーのみ。《A [continuum]》と名付けられた本作において、鑑賞者は耳と体でその作品を体感することになる。
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本作のテーマは、楽器の調律の基準音となっているA(ラ)の音。このA(ラ)は時代によって微妙に異なっていおり、今回のために池田は1300年代から1900年代までの様々なA(ラ)をリサーチ。それぞれの音の周波数は異なっているものの、非常に微細な差であるため人間の耳で聞き分けることは難しい。池田はこの多種多様なA(ラ)からいくつかをピックアップし、もともとはスタジアムなどで使用されていた指向性の高い5つのスピーカーから流し続ける。
鑑賞者が5つのスピーカーの間に立ったり、近づいたりすることで、音が干渉。聞こえかたが変化し、時にはホワイトノイズをも生じさせている。
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これら2つの作品に関係性はあるのか? この問いに対し、リスタはこう答える。「つながりはあります。今回の展示で見せているのは、続かないものと続くものの対話。永続性がないデータという情報と、残響によって存在し続ける音の対話です。そして、2つの作品の音は連動しているのです」。
フランスでは「メディア・アートのパイオニア」として評価されているという池田。「彼は特別な存在です。仏教や神道を意識しており、それを作品で伝えようとしている」。
「ジャポニスム 2018」という一連の企画のなかで、日本とフランスをまたにかけて活動する池田亮司の最新系を目撃してほしい。
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