次世代のアーティストの作品が一堂に。群馬県立近代美術館で「群馬青年ビエンナーレ2019」が開催中
16歳から30歳までの若い世代を対象とした全国公募の展覧会「群馬青年ビエンナーレ」。その第14回となる展覧会が群馬県立近代美術館で開催中だ。これまで様々なアーティストを輩出してきた本展の会期は3月24日まで。
群馬県立近代美術館の開館後まもない1976年に始まった「群馬青年美術展」を引き継ぎ、91年以降は隔年で開催されてきた「群馬青年ビエンナーレ」。16歳から30歳までの若い世代を対象にとしたこの全国公募展が今年も開催中だ。
今回は、219組(229人)から317点の応募があり、ポートフォリオのファイルによる入選審査のうえ、50組(52人)51点が入選。そして実際に展示された作品を目の前にした入賞審査を経て、大賞1点、優秀賞1点、奨励賞5点、ガトーフェスタ ハラダ賞1点の計8点が入賞を果たした。
大賞を受賞した赤松加奈《夕日の届くころ》は、鮮やかな色の様々なモチーフがひとつの画面の中で再構成され、呼応し合う絵画作品。結婚して初めて農業に従事するようになった作者は、人間も含めた動植物の生死に対する家族のおおらかさや、自然の流れを受け入れて生きる姿に感銘を受け、そうした自然の中にある生と死、そして人工物が混ざり合いながら、バランスを保ってそこに存在する日常的な風景――夕日に染まる空、畑の畝、イタチの死骸、トラクター、ビニールハウス、遠くに見える山々等――を多方向から観察し、描いている。
また、作者は絵画が成立する瞬間やあり方に興味を持ち、本作品のようにモチーフ同士が画面の中で出会い、そこで生まれる関係性とそのバランスというものについても強く意識している。自己の作品に埋没することなく、客観的なまなざしで、自分自身と他者を丁寧に見つめ、築いていった世界観が評価され大賞の受賞となった。
優秀賞の大石一貴《あ、そういえば、踏みつぶしたあれは今、何を見てるんだ。》は、インテリアと人の気配をもつオブジェが空間に巧みに配置され、様々な関係性を表現したインスタレーション作品。自由にそれぞれの形がそこにありながらも、触れたり、つながったり、さえぎられたりと、意識しあいながら存在する。そのコミュニケーションの狭間といったものに着目し、モノとモノとの関係性のあり方、つくり方といったものを問う作品で、そういった主題を確実に表現できるその力量が評価された。
奨励賞の上田良《A Magpie's Nest》は、拾ってきた廃材、ガラクタ、市販されているものを組み合わせた、もろく、一時的なオブジェを撮影し、その存在を恒久的に平面にとどめようとする写真2点組の作品。撮影することで、彫刻の表現では縛られてしまうボリュームや重力、空間などから解き放ち、見えてくるモノに焦点を当てている。街に落ちているプラスチック片やビニールなどで巣をつくるカササギ。本作は、「A Magpie's Nest(カササギの巣)」の題名のとおり、そうした雑多なもの、よくわからないものから何かを表現しようとしたシリーズのひとつである。
江藤佑一《ネス湖のカッパ》は、パントマイムの先生の言葉「パントマイムは空間の表現であり、ジェスチャーは説明である」から、パントマイムとジェスチャーの関係性を探り、知るため、パントマイムのジェスチャー、ジェスチャーのパントマイムを2つの映像で模索した作品だ。本作では、知ったこと・経験したことのいっぽうで、その隅に存在する知らないこと・未知のことについて、突き詰めようとする作者の興味を具体的に表現する。
倉田悟の《透明なドライブ》は、仕事の関係で父親と車に乗った時に得た、「自分が透明になったような感覚」を表現した絵画作品。自分の心の内面を見つめるような表現は、どこか不穏さを残しながらも、穏やかで不思議な雰囲気とユーモアを備える。本作に漂うほのかな客観性と淡々とした趣は、独自の感覚とそれを表現できる確かな技術に裏付けられている。
澤田華《Gesture of Rally #1805》は、古本屋で見つけた建築の本の写真の中に写りこんでいた、正体不明の物体について、それが何であるのか探求していくインスタレーション作品だ。意図しなかったものまで写すカメラや、写真を現像し、加工し、本を製作していく過程で発生するエラー、ノイズに目を向ける本作。写真というもの自体への追求にもつながるもので、それを面白く、明るくキャッチーに表現している。
前田春日美《短い手》は、海に向かって投げられる泥団子と、その様子を撮影した映像が写し出されたスクリーンに向かって、海に投げられた泥団子と同じように投げられ、スクリーンに張り付く泥団子という、2つの行為が画面の中で重なる映像作品。物理的に手に取る、感じることができないものに対し、再現することで、その衝動や感覚に向き合おうとした、作者の感覚に対する問いをシンプルに真摯に表現する。
ガトーフェスタ ハラダ賞の平田尚也《庭園》は、3つの画面からなるCGの映像作品。仮想空間の中に、主にインターネットから集めたデータが散りばめられているが、それらは実体を持たないながらも、現実の世界のいたるところに存在する情報の集合体であり、現実世界の断片でもある。そうしたリアルが散りばめられた仮想空間は、その存在や世界が何であるのかを常に我々に問いかけている。
これまで、大矢加奈子、片山真理、鬼頭健吾、笹山直規、吉田和生らが入選してきたこの公募展。次世代を担うアーティストたちの作品をお見逃しなく。