メディア・アートで固定概念から「脱皮」しよう。東京ミッドタウンで「未来の学校祭」開幕
東京ミッドタウンで2回目となる「未来の学校祭」が開幕した。アートとテクノロジーで未来の社会を考えるこのフェスティバル。「脱皮」をテーマにした今回の見どころとは?
あなたは何から「脱皮」する?
アート作品を通じて未来の社会を見つめ、視点の変化を促すことで、思考や既成概念から脱皮する ──そんなコンセプトを掲げるイベント「未来の学校祭」が、東京ミッドタウンで開幕した。
「未来の学校祭」がスタートしたのは2019年2月。初回では、ジェイコブ・トンスキーやCod.Actといった海外の第一線で活躍するメディア・アーティストたちの作品が登場し、大きな注目を集めた。
このフェスティバルの特徴は、なんと言っても「アートとテクノロジー」だ。東京ミッドタウンは、17年より国際的なクリエイティブ機関として知られ、メディア・アートの祭典も行う「アルスエレクトロニカ」(以下、アルス)と協働。「未来の学校祭」でも、アルスで出品された作品を体験することができる。
そんな「未来の学校祭」が掲げる今回のテーマは「脱皮 / Dappi─既成概念からの脱出─」。アート作品や企業の先端的な取り組みを紹介することで、固定された思考や既成概念から脱皮するきっかけを提示することを目指す。
来日したアルス総合芸術監督のゲルフリート・シュトッカーは、今回の狙いについてこう語る。「ミュージアムなどにあるアートではなく、ここでは鑑賞者の心にアートが出向き、出会ってもらうような場所にしたい。見るだけではなく、慣習や歴史を脱ぎ捨てることを、アートのインスピレーションによって実現する」。
最新のメディア・アートが一堂に
展示は大きく分けて「脱皮ルーム」「脱皮ラボラトリー」「脱皮スクエア」「脱皮キャンパス・エキシビション」で構成。昨年同様、東京ミッドタウン全体を使った展示だ。
今回、まずチェックしたいのが脱皮ルーム。「自分自身からの脱皮」をテーマにしたこの部屋には、今回の目玉作品が並ぶ。
入ってすぐ目に飛び込んでくるのは、大きなスクリーンと光を放つリングによって構成されたインスタレーション《LIMINAL》。本作は、写真技術史研究を背景に、デジタルならではのイメージを追求する作品を手がけるルイ=フィリップ・ロンドーによる作品だ。
競馬でも用いられるという「スリットスキャン」と呼ばれる撮影技法を用いたこの作品。光のリングをくぐることで画像が残像のようにスクリーンに残り、少し前の過去を映し出す。現実はどんどん過去になっていく、というごく当たり前ながら普段は意識しない事実を、エンターテインメント要素を含む体験型のインスタレーションで提示する。
視覚的なインパクトという点では、モーリッツ・ヴェアマンの《Alter Ego(Version Ⅱ)》にも注目したい。暗室に設置された1枚の鏡。自分自身と他者がこれを挟んで立ったとき、ふたりの像は混ざり合い、自分を喪失するような感覚を覚える。自分と他者を比べることで、自分とは何かを改めて認識させる作品だ。
文字通り「自分自身からの脱皮」を思わせるのは、AKI INOMATAの《犬の毛を私がまとい、私の髪を犬がまとう》。INOMATAと愛犬チェロ、それぞれの髪と毛を数年かけて集め、互いのための衣服と毛皮にし、まとうというプロセスを映像と実物で見せる本作。髪/毛の交換という行為で、ペットと人の関係を問い直す。
メディア・アート作品はこの「脱皮ルーム」のほか、ガレリアB1の「脱皮スクエア」でも展示されている。「新たな社会システムへの脱皮」をテーマにした作品が並ぶなか、もっとも注目すべきはアーティストグループ「h.o」による《AIはどんな夢を見るか》だろう。
AIを現代における「ゴースト」としてとらえ、そのゴーストの夢を具現化する本作。会場に設置されたカメラは来場者の顔を読み取り、リアルタイムに架空の人間の顔を生成していく。その顔こそがゴーストたるAIが欲する夢だという。街中に監視カメラがあふれる現代において、監視や検閲とAIが組み合わされるとどうなるかを提示しながら、そこからどう脱皮するのかを問いかける。
企業・大学の取り組みも紹介
こうしたアートだけでなく、企業の取り組みを紹介するのも「未来の学校祭」の特徴のひとつだ。身近な未来を提示する「脱皮ラボラトリー」には、ポーラやヤマハ、東芝といった大企業も参加。
ポーラは、日本人の8割が自分の声にコンプレックスがあるという背景から「POLA Voice makeup spheres」を生み出した。これは、化粧のように「声をメイクアップする」装置。マイクに向かって声を発することでその声をパーソナライズ=メイクアップし、自分の声に対する思い込みからの脱皮を促す。
いっぽうヤマハが見せるのは、伝説的なピアニストであるグレン・グールドとAIが共創する「Dear Glenn, Yamaha A.I. Project」だ。このプロジェクトでは、グールド特有の表現技法をアーカイブしたAIがピアノを演奏。それに加え、グールドが録音していない楽曲も、譜面を読むことでグールド風に弾くこともできるという。AIと人間が共創する可能性を探るプロジェクトとなっている。
今回は、こうした作品・企業プロジェクトのほかに、多摩美術大学や武蔵野美術大学、リンツ芸術デザイン大学など5つの大学が参加。それぞれの未来への取り組みを紹介する。
なお、会期中にはパフォーマンスやワークショップ、トークイベントなども多数開催。メディア・アートを通じて未来を考えるこのイベントに、足を運んでみてはいかがだろうか。