《蛸みこし》がつないだ人と地域。アーツカウンシルしずおかが支援するアートプロジェクトの見本市
アーツカウンシルしずおかによる参加型イベント「おもしろい人に会いたい!!2023 ―アートプロジェクト見本市―」が3月12日に実施された。
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アーツカウンシルしずおかは「視点をかえる 発想をひらく」をキャッチフレーズに、住民主体のアートプロジェクトを支援。物事の見方や発想を広げる手助けを通じて、民間団体やNPO、企業などによる地域づくりを盛り立てるため、2021年1月に公益財団法人静岡県文化財団内に誕生した組織だ。
「おもしろい人に会いたい‼2023 ―アートプロジェクト見本市―」は、同団体の助成事業「2022年度文化芸術による地域振興プログラム」の活動報告を主軸に、誰もが参加できる初の大規模イベントとして3月12日に実施。当日は、2022年度に同事業が支援した31のアートプロジェクト主催者たちによるプレゼンリレーが行われたほか、「超老芸術」展示やワークショップ、物販などによって賑わいを見せた。
広場のように設えられた会場では、様々な催しが同時多発的に展開。子供から大人まで幅広い年代の来場者がそれぞれに楽しむすがたや、登壇したプロジェクト関係者らとの交流が見られるとともに、静岡県内各地で展開されるクリエイティブな地域づくりに関心を抱いた来場者も多かったに違いない。
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なかでも、ひと際目を引いたのは会場中央にエリアを構えた「かつぎにおいでよ!蛸みこし」だ。《蛸みこし》は、「蛸の脚はその1本1本に独立した知性がある」という研究に着想を得てつくられた、芸術探検家・野口竜平による作品。8本の脚を8人で息をあわせて担ぐその瞬間に、小さな「共同体」をつくりだすというものだ。今回の見本市のなかで、来場者にアートプロジェクトの面白さの一端を体験してもらうため、短期のアーティスト・イン・レジデンス(AiR)を経て設置されたという。
野口は、同団体による地域とアーティストのマッチングプロジェクト「マイクロ・アート・ワーケーション」で昨年10月に富士市吉原地区に滞在。蛸みこしの素材である竹と同地区のつながりに関心を持った。今回のイベントに向け2023年1月から実施されたAiRでは、同地に「蛸みこし研究センター」を開き、約1ヶ月に渡り、住民や商店会、企業などと交流しながら滞在制作を展開した。
イベント当日は、来場者が担ぐことができる3体の蛸みこしとともに、野口によるドローイングやテキスト、アーツカウンシルしずおかによる滞在中の出来事をまとめた資料なども見ることができた。来場者は、その場で初めて出会った人たちと、同時にひとつの物事に取り組むことの「楽しさ」と「むずかしさ」を体感するとともに、アートプロジェクトが地域に展開するイメージを広げていた。
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ほかにも「マイクロ・アート・ワーケーション」参加ホストによるディスカッションや蛸にまつわるトークセッション、まぼろし博覧会館長のセーラちゃんとの交流、ヒカシューやチャラン・ポ・ランタンら総勢11名のメンバーによるゴジラ伝説ライブ、静岡の食文化を体験するコーナーなど数多くのプロジェクトを実施。約900人の来場者を楽しませていた。またフィナーレでは、三島市で350年続く祭囃子であるしゃぎりの演奏に、来場者、プレゼン団体、ゲストらが入り乱れ大団円を迎えた。
アートと言われると難しく感じる人も少なくない現状があるが、自身の住んでいる地域や住民、その取り組みを知るきっかけをつくることができるのもアートにおけるひとつの大きな役割だ。2023年度も住民が積極的に活動したいと思えるような新たなプロジェクトの創出が期待される。