パリ・オペラ座のバレエダンサーに密着した写真家。ピエール=エリィ・ド・ピブラックの日本初個展がシャネルで開幕
パリを拠点に活躍する若き写真家ピエール=エリィ・ド・ピブラック。その日本初個展が、銀座のシャネル・ネクサス・ホールで始まった。会期は3月27日まで(新型コロナウイルスの影響で短縮)。
世界を代表する劇場であるパリ・オペラ座。ここで活動するバレエダンサーたちに密着し、独自の作品を生み出した写真家ピエール=エリィ・ド・ピブラックの日本初個展が、銀座のシャネル・ネクサス・ホールで始まった(3月27日まで)。
ピブラックは1983年パリ生まれ。写真家の祖父を持ち、ビジネススクールを卒業後、2009年から本格的に写真の道を歩み出した新進の写真家だ。
ピブラックは、13~14年と14~15年のシーズンにかけて、オペラ座のバレエダンサーに密集し、「In Situ」と題したシリーズを制作。本展はこのシリーズの集大成で、作家がオペラ座を理解していったプロセスを象徴するような展示構成となっている。本展キュレーターのインディア・ダルガルカーは、「ひとつの作品が次の作品への導線となるような構成で、空間全体がひとつの作品。会場をめぐる鑑賞者の動きと、ダンサーたちの動きが連動する」とその狙いについて語る。
同シリーズは「Confidences 」「Analogia」「Catharsis」の3部から構成。会場にはそれらから厳選された約50点が並ぶ。
まず「Confidences(信頼)」は、バックステージやリハーサル中に撮影したモノクロ写真だ。ピブラックは無音カメラと特殊レンズを用いることでダンサーたちに近づき撮影。現場の臨場感をもっとも強く伝えるシリーズだと言える。モノクロで制作した理由について、ピブラックは「バレエダンサー自身と、彼らの世界、そしてそこにある光のコントラストだけに焦点をあてたかったから。親近感がテーマ」だと語っている。
「Analogia(アナロジー・類推)」は、11人のバレエダンサーたちとともに構図を考えながら制作されたカラー作品。非常に広角な視野を得られるように改造された大型ビューカメラが用いられている。
この現実を超えた演出写真の主役は、オペラ座ガルニエ宮という荘厳な建築物自体。ピブラックがオペラ座に滞在するなかで、「オペラ座自体が、バレエダンサーのパフォーマンスのクオリティにおいて大きなウェイトを占めていることに気づいた」ことから生まれた作品群だ。ピブラックがもっとも強く印象に残っているという、オペラ座屋上で撮られた作品もこのシリーズのひとつ。
「Confidences」と「Analogia」とは一線を画すのが、「Catharsis」シリーズだろう。本シリーズは、バレエダンサーの動きを「ボケ」によって写したもの。パフォーマンスするバレエダンサーたちが発するエネルギーと、それらが周囲に拡散される様をとらえようとしたのだという。
このシリーズは、被写体となったバレエ作品とも密接に関わりあっている。ピブラックが作品から受けた感情や衝動、不安や幻想を、写真的考察に置き換えた結果が、抽象的な写真へと落とし込まれている。
こうした3つの異なるフォーマットによって構成された本展。オペラ座とバレエダンサーに魅せられた写真家の目線を追体験してほしい。
なお、ピブラックは現在京都に長期滞在し、何かしらの絵画を喚起させるような、「内面の亡命」をテーマにした作品を制作中。こちらも発表の機会を楽しみに待ちたい。
*3月17日追記:会場風景の動画がシャネル・ネクサス・ホールによって公開。詳しくはこちらをチェック。