リヒター含む150点はなぜ寄贈されたのか。神奈川県立近代美術館を“選んだ”コレクター
日本で最初の公立近代美術館である神奈川県立近代美術館。そこに、コレクター・野崎道雄によって約150点もの近現代美術作品がもたらされた。その背景を探る。
購入予算「ゼロ」からのスタート
日本各地に数多く存在する公立美術館。そのなかでも、神奈川県立近代美術館は日本最初の公立近代美術館として知られる。同館の開館は、敗戦後わずか6年目の1951年。鶴岡八幡宮境内にあった鎌倉館は土地借用契約の満了によって2015年度に閉館(建物は鶴岡八幡宮に譲渡)したものの、16年度以降も葉山館と鎌倉別館の2館で活動を続けている。
1951年の開館当時、同館の購入予算はゼロだったが、おもに寄贈によってコレクションを形成。近代美術(近代から同時代まで)を中心とするコレクションはいまや1万5000件にのぼる。なかでも高橋由一や萬鉄五郎、岸田劉生、古賀春江、松本竣介、麻生三郎など、幕末・明治から昭和にかけて日本の近代洋画を切り拓いた画家のコレクションの層は厚く、約3000点を誇る。
いっぽうで現代美術のコレクションは多いとは言えない。現代美術の市場価格は公立美術館にとって決して安いものではなく、充実させるには膨大な予算が必要だ。同館では毎年、作品収蔵を協議する「収蔵作品認定評価協議会」が開催されるものの、実際の購入件数は非常に少ない。近年は19年度3件、20年度2件、21年度3件と、ゼロに近い数字が並ぶのが実情だ(いっぽう寄贈はぞれぞれ90件、162件、451件と少なくはない)。
こうした状況に一石を投じたのが、コレクター・野崎道雄氏による152件の現代美術作品の寄贈だった。