2021.5.30

「世界中の何百という街の、あらゆる道から増えていく、ストリート・レベルの相互作用を追い求めているのです」。インタビュー:JR

雑誌『美術手帖』の貴重なバックナンバー記事を公開。本記事では、2013年に行われたJRのインタビューを公開。マーケットでもストリートカルチャー出身のアーティストが注目される現在、ストリートでメッセージ性の強い作品を発信してきた作家の実像に迫る。

聞き手=ダリル・ウィー 翻訳=近藤亮介

ワタリウム美術館の外壁にて 撮影=西田香織
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プロジェクトから生まれるエネルギーは、すでに世界を変えるための一歩となっている

 「ストリートは世界最大のギャラリーだ」──写真を建物の外壁や屋根に貼付け、その地域や人々に意識の変革を促してきたJR。世界の隅々まで飛び回り、様々なプロジェクトを展開してきた作家は昨年末、東北を訪れた。初期作から東北でのプロジェクトまでを紹介し、これまでの活動を振り返るワタリウム美術館での個展を前に、話を聞く。

ワタリウム美術館の外壁で設営中のJR  撮影=西田香織

 過去にはビル・クリントンや、U2のボノも受賞したTEDプライズ(*1)。その2011年受賞者であるフランス出身のアーティストJRが現在、日本では初の個展となり、これまでの活動を包括的に紹介するものとしては世界でも初となる展覧会をワタリウム美術館で開催中だ。

 パリの「バンリュー(*2)(郊外)」の路上で写真を貼り付けるという、初期のゲリラ的行為から始まったJRのアートは、今では世界規模のアート・プロジェクト「インサイドアウト・プロジェクト(*3)」(以下、インサイドアウト)へと形を変えて展開されている。TEDプライズ受賞後にJRが立ち上げたウェブサイトを通じて人々の顔写真を募り、それらを大判にプリントした後、彼らが望む場所に貼れるよう返送するというこのプロジェクトには、2年間で100か国以上から12万5000人が参加している。その一環として、そして今回の個展準備のために、2012年11月にJRは東日本大震災と津波による甚大な被害に遭った東北地方を訪れた。彼はカメラとプリンターを内蔵する「インサイドアウト・フォトブース」をトラック後部に載せ、現地協力者たちの運転により東北中を巡回したという。

 その舞台裏の刺激的なプロセスや、みずからは作品と距離を置くことでプロジェクトに特有の持続期間や気運を導き、その実行を地域社会が「下請負」することの意義、そして東北地方での最新プロジェクトのなかでアーティストが得たもの──ワタリウム美術館のファサードを飾る巨大な写真コラージュ──について、展覧会開幕の前日に話を聞いた。

「インサイドアウト・プロジェクト」より  東北 2012
個展「世界はアートで変わっていく」のために、ワタリウム美術館の外壁にJRが東北で行った「インサイドアウト・プロジェクト」のコラージュが展示された。東北の人々や、プロジェクトに関わったボランティアやアーティストの群像が描き出されている
撮影=今井紀彰 提供=ワタリウム美術館

全世界から12万5000人が参加「インサイドアウト・プロジェクト」

──まず「インサイドアウト」について聞かせてください。あなたはプロジェクトの参加者に自発的・自立的行動を促しながら、様々な要素を統制しようとしていますね。プロジェクトを匿名で指揮しながら、満足のいく結果を得られますか?

 ご想像のように、私は監督の立場から抜け出して、今でも活動を始めたころのように自分で写真を貼り付けたいと思っています。それでも、メッセージ性を強調し、作品が伝える意味を深めるためには、私は影に身を潜め、目立たない立場にいることが肝心なのです。

──今回の個展の、2階に展示されているマルチ・スクリーンのインスタレーションは、「インサイドアウト」を行った様々な国での記録映像ですか?