『海月姫』『かくかくしかじか』『東京タラレバ娘』などで知られるマンガ家の東村アキコ。このたびNFTでアートの世界へ本格進出することになった東村に、その理由や今後の展望について聞いた。(PR)
マンガ家・東村アキコが初のNFTオリジナル作品としてラインナップした、しとやかで艶やかな着物姿を描いた「NEO美人画 2022」シリーズ。どのような心境と意図のもと、美術作家への道を踏み出し、NFTアートに挑戦したのか。話を聞いた。
──東村アキコさんが現代美術作家として打ち出されるとのお話をうかがいました。人気マンガ家が、あらためて美術の世界で作品を発表していく、その理由は何でしょうか?
いやあ、おこがましいですが、今回、本気でアートに向き合っていますよ。私は、金沢美術工芸大学の美術科油画出身なんです。卒業してすぐにマンガの仕事を始めたので、そのままファインアートからは離れたままでしたが、いつかまた絵を描いて個展をひらきたいとずっと思っていました。
心の中でいつも美術の世界で創作をすることを考えていたのですが、コロナ禍を機にいよいよ作品を描き始めました。打ち合わせや会食などがいっさいなくなって家に引きこもっていた時期で、夜に時間ができたので絵を描きたくなり、そのとき一番描きたかった着物姿の女性の絵を仕上げてみたんです。
周囲の人に見せると新鮮な反応というか、目を輝かせてくれたりと、まあ好評だったので気を良くして、着物の美人画だったらたくさん描きたいテーマがあるぞと思いいたり、そのまま立て続けに描いていきました。
着物はおよそ5年前、茶道を始めて以来はまっていまして。上杉謙信を主人公としたマンガ『雪花の虎』を描くことになってあれこれ調べていたら、戦国時代におけるお茶の重大さに気づき、これは本腰を入れて学ばねばと思ったんです。
コロナ禍で最初に描いた絵は、お茶の姉弟子の姿を描いたもの。お稽古の前、茶室でその方が足を崩し座っていた姿が優美で、描きたくなりました。姉弟子はコロナ禍なのでマスクをしているのですが、そのマスクもお茶の席に合うよう着物用の布でつくってありました。まさに現代の姿ですよね。浮世絵や明治以降の美人画が大好きで、その雰囲気を踏襲していますが、あくまでも私は現代に生きる女性を描きたいんです。
──そこから着物姿の女性を描いた「NEO美人画 2022」シリーズが生まれてきたわけですが、作品を発表する手段としてNFTアートを選んだのはなぜですか?
いいタイミングで声をかけていただいたんですよ。マンガをデジタル制作するとき私が愛用しているソフト「メディバンペイント」の運営元であるメディバンが、NFTアートを扱っているGMOのサービス「Adam」に参画するにあたり「東村さんどうですか、作品を出しませんか?」と。
もともとNFTアートの存在は知っていましたし、新しい媒体やツールへの挑戦はまったく気にならない性格なので、これはおもしろそうだと話に乗りました。
それに、NFTアートなら私の長年の懸念も解消されると思えました。というのも、マスを相手にする商業マンガの世界から美術の世界を眺めていて、前々から疑問に感じることがひとつありまして。例えば自分の描いた油彩画を誰かが買ってくれると、そのまま作品とお別れしなければいけないわけですよね。それってつらくないのかな?と思ってしまうんです。
もしコレクターが家や倉庫にしまい込んでしまったら、ほぼ人目に触れなくなって、なんだかもったいない気がします。買った人がイメージを独占できるシステムがいいものなのかどうか、私にはちょっとわからないなと思っていました。
でもNFTなら、自分の生み出した作品が誰でも見られる状態で残ることとなり、「売れたらなくなっちゃう、みんなの目に触れなくなってしまう」という怖れから解放されそうで。作家にとっても、うれしい仕組みだなと感じられました。
国や地域を問わず作品を観たり購入したりしてもらえるのもNFTアートとして販売するメリットですよね。私は韓国をはじめ多くの国でマンガ作品を発表していて、いろんな文化的背景を持つ人たちに読んでもらえる楽しさは日々実感しています。絵画作品も同じように、いまという同じ時代を生きている人たちと共有できるものがあればいいなと思います。
始める前は、ちょっと不安もあったんですけどね。日本のマンガ家のNFTとしてみんなが欲しいのは、誰もが知ってるヒット作のキャラクターの絵だったりするのかなという気もしたので。オリジナルの絵を受け入れてもらえるのかどうか……。でもここは知名度なんか気にせず、自分のいいと思える絵を描けばきっと感応してくれる人がいると信じてやるしかないと、腹を決めました。
──これまで描いてきたマンガ作品の絵と、今回の絵画作品シリーズは、描き方が大きく違うものなのでしょうか?
マンガには「マンガの絵」というものがやっぱりあるんですよ。一枚ずつは省略やデフォルメを効かせてわかりやすくしてあり、そうした絵が連なってひとつのストーリーを構成していく。
対して今回のNFT作品は、一枚にすべてを詰め込んである絵です。表面上は女性がひとり佇んでいるだけですけど、そこに少女マンガの読み切り作品一本分くらいのストーリーが織り込んであります。
一枚の絵に込められた物語を見る人が自在に想像し読み取っていくというのは、古くから受け継がれてきた絵画のおもしろさですよね。美人画なら浮世絵の数々も、後の時代の伊東深水や志村立美にしても、見ればその女性の境遇が透けて見えたり、彼女の人生のあれこれの場面が浮かんでくる気がするじゃないですか。
──どのようにして、物語を1枚に落とし込むのでしょうか?
まず着物から決めるんです。この着物を描きたいとなったら、実際にそれを人に着ていただいて、その姿を見ながら描いていく。そうしないと生きた絵になりません。
着物には着用する季節とTPOが細かくきっちり決まっているので、どの着物を描くか決めるだけで、場面・状況の設定が為されるわけです。たとえば「雪持」と呼ばれる柄は、植物やお花に雪が積もっているもので、これを着るのは冬の12~1月と決まっています。
「きっと寒い日で、雪も降っているんだろう」となると草履はこうだし、傘も持っているはずと、細部が自然と埋まっていきます。「その日女性はどこへ何をしに出かけるんだろう?」と想像が拡がっていき、ストーリーもおのずとできあがっていくといった感じですね。
ちなみに今回発表する全20作のうち1作品は特別な試みもしていますので、そちらのストーリーも楽しみにしていただければと思います。
──最後に、NFTアートに取り組むにあたっての意気込みをお願いします。
想像力に富んだ日本の伝統的な美の世界を、NFTという新しい器に載せて、ほうぼうまで届けていくことができれば素敵ですね。購入していただけたら、もちろん自由に使っていただいていいんですけど、せっかくなのでPCのデスクトップやスマホのホーム画面など、人の目に触れやすいところに使っていただくとうれしいです。
秘密のコレクションというだけじゃなく、みんなに見せびらかして自慢したり共有したりするのも、アートの楽しみのひとつ。気軽にそういうことができるのが、デジタルのよさでしょうからね。