2023.3.14

「MACC」が思い描くメディア芸術の未来形を探る

メディア芸術領域の現状をより深く広く伝えるための文化庁のウェブメディア「Media Arts Current Contents(MACC)」がローンチ。新たに撮り下ろされたヴィジュアル・イメージのメイキングを通して、本メディアのコンセプトやその目指すべきところを探る。

ヴィジュアル・イメージ:PRD/CD/AD:Yuta ODA(COMPOUNDinc.)、WEB:HANDSUM、MODEL:Yuka MANNAMI(DONNA)、COSTUME:HATRA

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MACCとは何か?

 2023年2月にオープンしたポータルサイト「Media ArtsCurrent Contents(MACC)」は、文化庁が定めるメディア芸術における4分野(マンガ・アニメーション・ゲーム・メディアアート)のアーカイヴを考えるために2021年につくられたイベントサイト「MAGMA sessions」が基盤となっている。「MAGMAsessions」を発展させつつ、既存の文化庁のウェブサイト「メディア芸術カレントコンテンツ」に掲載されたレビューやレポート、イベントスケジュール紹介といった機能も引き継ぎながら、総合的なポータルサイトとして生まれ変わったのが「MACC」だ。

MACC

 本サイトではこれまで文化庁の各プロジェクトを通して蓄積されてきた膨大な知識や記事のアーカイヴを、「楽しむ」「知る」「考える」という新たな3つの柱と紐づけることで、より活用しやすいかたちに整理。新たな記事企画やトークセッションも積極的に実施しながら、より広い層に向けてメディア芸術の実際を伝えるとともに、アーカイヴの活用やジャンル間の結びつきによって、メディア芸術のクリエイションを活発化させていくポータルサイトとなる。

MACCのヴィジュアル・イメージが表現するもの

 新たに始動するMACCのコンセプトやヴィジョンをより多くの人に伝えるため、「楽しむ」コンテンツのひとつとして、ヴィジュアル・イメージが制作された。その総合ディレクションを務めたのは、クリエイティブ・ディレクターで、MACCのメディア・プランニングも担う小田雄太。モデル・萬波ユカとともに、MACCのコンテンツを活用しながら制作が進められたプロジェクトの企画意図について、小田は次のように語っている。

メイキング中の萬波ユカ

 「MACCは、人がつくった『メディア芸術』という分野の情報をデータベースのかたちで編集し、それを再び人に定着させていくようなウェブサイトを目指しています。そこで、データベースから生まれたグラフィックを、全身を覆う衣服として人がまとうことで、表現しようと思いました」。

 ここからは、このヴィジュアル・イメージの制作過程と、各過程に関わったクリエイターたちがどのような思いをそこに込めたのかを紹介する。MACCが目指す、メディア芸術のジャンルが連関した、新たな価値づくりを追ってみたい。

ヴィジュアル・イメージの撮影風景

MACCのヴィジュアル・イメージはこうしてつくられた

①「文化庁メディア芸術データベース」を萬波ユカが検索

 萬波ユカが、メディア芸術データベースを使い、1時間ほどかけてこれまでふれてきたアニメ、マンガ、ゲームを検索。ジャンルを自在に横断する萬波の検索結果は、90年代以降活発になったメディアミックスによって、同一コンテンツながら多彩なジャンルで展開される作品とともに育った背景をうかがわせた。

 膨大な量のデータを保有するメディア芸術データベースは、その活用方法にも様々な可能性がある。今回、萬波が自身の体験してきた作品を振り返りながら図案のもととなる検索結果を導き出したことも、今後の発展の礎となるだろう。

文化庁メディアデータベースで検索をする萬波ユカ 撮影=高橋宗正

②検索データをグラフィックに

 グラフィックを担当したメディア・アーティストの原淳之助は、萬波が自身の記憶をたどりながら検索したデータベースをもとに、記憶が神経細胞のように広がり、宇宙空間を構成するようなイメージを意識してグラフィック化を試みた。制作を進めるなかで根が張るようなイメージにたどり着き、そこに細胞分裂を繰り返して生命を維持する生物のプリミティブな機能も見出したという。

 宇宙空間や神経細胞というテーマに沿うと黒を基調としたグラフィックになりがちだが、小田や衣服のデザインを担当するHATRAの長見佳祐と連携し、白をベースとした明るい配色を採用した。そして緑や黄を始めとした多色を用いることによって、メディア芸術の様々な分野を表現した。

萬波が漫画『ONE PIECE』で検索した結果画面をもとにグラフィック化されたイメージ

グラフィックをもとに衣服をデザイン

 衣服のデザイナーとして長見を選んだ理由を小田は次のように語る。

 「HATRAは身体を包む衣服の機能と向かい合ってきたブランドですし、また長見さんが提案するテキスタイルデザインは抽象的であると同時に、人間の生理作用に根差したようなアプローチが取られています。また、彼はポップカルチャーに対する造詣も深いので、ぜひご一緒したいなと思いました」。

 長見は小田を通じて原のグラフィックを受け取り、そのサイズやトリミング範囲を調整しながらファブリックへと落とし込み、萬波が着る衣服として立体化していった。

グラフィックを衣服デザインに落とし込む

④デザインされた衣服を着て撮影

 都内スタジオにて、長見や小田の立ち会いのもと、萬波ユカが完成した衣服を着て撮影を実施。原のグラフィックを生かしながら長見がデザインした撮影小物とともに、萬波がポーズをとる。

撮影中の様子

 背景で溶け合う光は、フォトグラファーの奥脇孝典のアイデアで、様々な知がそれぞれつながり溶け合う様を表現したという。本撮影で初めてこの衣服を着たという萬波は、次のように感想を述べた。

 「根が張るように知識がつながる様子を衣服として着用することで、情報に包まれるような不思議な感覚になります」。

写真の仕上がりをチェックする

長見佳祐(HATRA)インタビュー

 衣服のデザインを担当したHATRAの長見佳祐。そこにどのような思いが込められていたのか、インタビューで迫る。

──今回の依頼をどのように受け止めましたか。

 興味深い企画だと思った反面、これまでHATRAでは自分自身の責任のもと服づくりをしてきたので、小田さんや原さんとともにチームの一員として構想を組み上げていく今回のような入り方はあまり経験がないことで、不安はありました。

長見佳祐

──どのようにコンセプトを組み立てましたか?

 「世界に散らばるデータを個人の身体を通過させて衣服で表象する」という試みはこれまでHATRAがやってきたことと共通点が多いと思いました。HATRAでも身体が情報に包まれることのメタファーを作品に落とし込んできましたが、今回は内にこもるイメージだけでなく、包まれると同時にアクティブな外に向かう力を大事にしたかったんです。その点に注意を払い、小田さんと3Dシミュレーションを確認しながら図案に修正を重ね、明るい配色の最終案へと着地しました。

 特徴的なのは首を覆う大きな襟です。内側にもタイトな襟がある二重構造で、これはHATRAのインラインでも実験的に採用しているディテールです。メタデータの連なりがその人自身を形成する感覚を、着る人のアイデンティティが集中する頭部の周りでどのように具現化するかということを考えた結果です。全身のデザインは、アクティブさと萬波さんが持っているエレガンスのバランスを考え、最終的にドレスのようなジャンプスーツにたどり着きました。

──今後MACCを通じ、ファッションがメディア芸術の近接領域としてアーカイヴ・言説化される可能性もあるかもしれません。

 ファッションと言っても、マスプロダクトから、HATRAのようなインディペンデントなデザイナーズブランド、古着文化など、語の指し示す幅はあまりに広いですよね。それらルールの違う、しかし互いにもつれあったゲームをひとつにまとめてアーカイヴ化するのは難しいように思います。日本で可能性があるとすればそれはストリートで、いかにファッションが多様でも、それらを受容して生まれる独自の言語はオンライン・オフライン問わずストリートに圧縮されます。そこに二次流通も含めた生態系が存在することも込みでアーカイヴできるのなら、未来のために有益かもしれません。

MACCのコンテンツを紹介

 多彩なクリエイティブが組み合わさり、高い志をもってスタートしたMACC。最後に、そのおもなコンテンツを紹介したい。 

記事

 「知る」「楽しむ」「考える」の3つの軸で、「MACC」のマンガ、アニメーション、ゲーム、メディアアートについてのニュースや記事を総覧することが可能。関連するイベント情報、専門家による深い知見や制作者たちの声にふれるとともに、各記事が領域横断的につながることで、メディア芸術の持つ同時代性やダイナミズムも感じられる。

MAGMA Sessionsと連携

 メディア芸術の各分野におけるアーカイヴや今後の展開についての有識者によるセッション、インタビューを公開してきた「MAGMA Sessions」。これまでのコンテンツのアーカイヴを見るとともに、新たなセッションを開催することで、メディア芸術の「いま」に迫ることができる。

メディア芸術データベースにリンク

 マンガ、アニメーション、ゲーム、メディアアートの作品情報や所蔵情報をデータベースとして整備することで、メディア芸術へのアクセスおよびその保存・利活用の要となるデータを提供。分野を横断して作品に関する情報を探し出すことができるほか、データ利用のためのデータセット及びウェブAPIも公開している。

メディア芸術カレントコンテンツ(過去のアーカイブサイト)にリンク

 コラム、レポート、レビューなどでメディア芸術の情報を深掘りしてきた「メディア芸術カレントコンテンツ」のアーカイヴにもリンク。とくに専門的な知見から書かれた数多くのコラムには、メディア芸術を考えるうえで役に立つ、様々な情報が詰まっている。