EXHIBITIONS
人物と静物 ミヒャエル・ボレマンス、五十嵐大地、熊倉涼子、清水浩三、松浦美桜香
ギャラリー小柳で、グループ展「人物と静物」が開催される。
静謐な人物画で知られるミヒャエル・ボレマンスは、数多くのポートレートを描いているいっぽうで、静物をモチーフとする作品も手がけている。いくつかのコルクを描いた《Commutation》(2008)は一見静物画に見えるが、ボレマンスはこれもまたポートレートであるととらえている。ギャラリー小柳は本作から想を得て、人物と静物のあいだだをゆらめくように対象そのものにアプローチする五十嵐大地、熊倉涼子、清水浩三、松浦美桜香による作品を展観する。
五十嵐は、樹脂を用いて複製した桃の静物画を展示。桃は古事記や世界各地の神話にも記されているように古くから生命力や多産、不死を象徴してきた。五十嵐は桃を鉄粉と顔料を混ぜた樹脂で複製しているが、それは複製の過程で変形し傷ついてしまう。複製した桃の内部に生まれた空洞は、桃の表面をなぞった樹脂の薄さを物語っている。五十嵐はその桃を撮影し、さらにそれを写実的に描きながら、複製の過程で原型が変化する様や、人の認識における本質の所在を探っている。
熊倉は、かつて想像されていた世界のかたちと、ケルベロス座という現在では使われていない星座を題材とした作品を展示。熊倉は歴史史料から図像を組みあわせて制作したモチーフを撮影し、それを描いている。この図像は、かつての信仰や想像といった曖昧な存在をこの世に具現化し、強固なものとさせてきた。熊倉はこれらのモチーフを通して、現代においても本当は世界の輪郭は曖昧であり、過去の世界観のようにいずれ上書きされ、まったく異なるかたちになっていくのではないかと示唆している。
清水は、重力をきっかけにものが変容していくさまに焦点を当てて作品を制作。本作は、17世紀ごろの植物図に描写された、花が咲きながら球根や根が露わになっているチューリップから着想を得た。清水はそれを生きながら死んでいるという矛盾した状態に留まっているととらえ、重力の影響を受ける土粘土を制作過程に用いると同時に、絵画の平面性を強く意識しながら画面構成を行うことで、相反する状況を別の方法で表現している。形成された土粘土の地面に接する面が画面の多くを占め、充満や空白、膨張や収縮、空と地の両方からの光など、対立する現象が混在する本作は、具象的でありながら描かれているものや状況が一目では把握できない奇妙な印象を見るものに与える。
松浦は、自ら作成したドールなどの立体作品を、木炭や油彩で平面に落とし込み、その際に生じるギャップや質の変化に関心を持ちながら制作している。いびつでシュールにも見えるドールは本来動かないものだが、木炭で描かれたドールはある種の美しさを纏い、絵のなかでは生きているもののようだと松浦は言及。これまでひとつの対象をポートレートのように描いてきた松浦は、本作では複数の対象を描いている。鑑賞者が第三者の視点から、物やその表情に感情移入できるような作品を追求している。
静謐な人物画で知られるミヒャエル・ボレマンスは、数多くのポートレートを描いているいっぽうで、静物をモチーフとする作品も手がけている。いくつかのコルクを描いた《Commutation》(2008)は一見静物画に見えるが、ボレマンスはこれもまたポートレートであるととらえている。ギャラリー小柳は本作から想を得て、人物と静物のあいだだをゆらめくように対象そのものにアプローチする五十嵐大地、熊倉涼子、清水浩三、松浦美桜香による作品を展観する。
五十嵐は、樹脂を用いて複製した桃の静物画を展示。桃は古事記や世界各地の神話にも記されているように古くから生命力や多産、不死を象徴してきた。五十嵐は桃を鉄粉と顔料を混ぜた樹脂で複製しているが、それは複製の過程で変形し傷ついてしまう。複製した桃の内部に生まれた空洞は、桃の表面をなぞった樹脂の薄さを物語っている。五十嵐はその桃を撮影し、さらにそれを写実的に描きながら、複製の過程で原型が変化する様や、人の認識における本質の所在を探っている。
熊倉は、かつて想像されていた世界のかたちと、ケルベロス座という現在では使われていない星座を題材とした作品を展示。熊倉は歴史史料から図像を組みあわせて制作したモチーフを撮影し、それを描いている。この図像は、かつての信仰や想像といった曖昧な存在をこの世に具現化し、強固なものとさせてきた。熊倉はこれらのモチーフを通して、現代においても本当は世界の輪郭は曖昧であり、過去の世界観のようにいずれ上書きされ、まったく異なるかたちになっていくのではないかと示唆している。
清水は、重力をきっかけにものが変容していくさまに焦点を当てて作品を制作。本作は、17世紀ごろの植物図に描写された、花が咲きながら球根や根が露わになっているチューリップから着想を得た。清水はそれを生きながら死んでいるという矛盾した状態に留まっているととらえ、重力の影響を受ける土粘土を制作過程に用いると同時に、絵画の平面性を強く意識しながら画面構成を行うことで、相反する状況を別の方法で表現している。形成された土粘土の地面に接する面が画面の多くを占め、充満や空白、膨張や収縮、空と地の両方からの光など、対立する現象が混在する本作は、具象的でありながら描かれているものや状況が一目では把握できない奇妙な印象を見るものに与える。
松浦は、自ら作成したドールなどの立体作品を、木炭や油彩で平面に落とし込み、その際に生じるギャップや質の変化に関心を持ちながら制作している。いびつでシュールにも見えるドールは本来動かないものだが、木炭で描かれたドールはある種の美しさを纏い、絵のなかでは生きているもののようだと松浦は言及。これまでひとつの対象をポートレートのように描いてきた松浦は、本作では複数の対象を描いている。鑑賞者が第三者の視点から、物やその表情に感情移入できるような作品を追求している。