EXHIBITIONS

SCAI PIRAMIDE SCREENING PROJECT vol.1

ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ ヘ・シャンユ ヴァジコ・チャッキアーニ

SCAI PIRAMIDE
2022.02.03 - 04.02

ヘ・シャンユ Terminal 3 2019

 SCAI PIRAMIDEは、スクリーニングプロジェクト「SCAI PIRAMIDE SCREENING PROJECT」の第1弾を開催。ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ、ヘ・シャンユ、ヴァジコ・チャッキアーニの3組による映像作品を上映する。

 韓国出身のアーティストデュオであるムン&チョンの《A Molded Moon, Life within a Vase》(2016)は、満月に似たそのかたちから「月壺」と呼ばれ、また完成度のばらつきに特徴のある韓国の白磁器をモチーフに、完璧を追求する人生の虚しさを描き出した作品。映像のなかでは、盲目の女性が暗闇のなかで独白している。交互に現れる毛むくじゃらの男がその言葉を継ぎ、2人の間に対話が展開されているようだ。

 ゲーテの「ファウスト」を参照した2人の台詞は、主人公であるファウスト博士が、自身の成し得なかった人生を嘆き、さらなる知識を得るために悪魔メフィストフェレスにその魂を売る有名な場面を引用している。毛むくじゃらの男は、黒いむく犬の姿で現れた悪魔メフィストフェレスを連想させ、いびつさ(=不完全性)を特徴とする「月壺」を象徴的素材に据えた本作は、「ファウスト」の時代から繰り返される哲学的主題を美学的領域において昇華することに成功している。

 中国・遼寧省に生まれ、現在はベルリンに在住するへ・シャンユの《Terminal 3》(2016〜19)は、河北省の呉橋(ごきょう)に位置する呉橋雑技芸術学校を舞台に、3年という歳月をかけて撮影された。中国唯一の雑技専門学校である本校において、作家がスポットを当てるのは、主にエチオピアやシエラレオネといったアフリカを出身地とする数名の留学生だ。黙々と練習に励む彼らの映像に、将来の夢や希望を語る台詞が重なっていく。キリスト教の神や、イスラム教のアラーといったそれぞれの信仰対象に捧げる留学生たちの祈りの日課が、リズムを打つように挿入され、映像に独特な世界観を付与している。

 急速な都市化を経る過程の中国に生まれた何(へ)は、疎外されたものへの繊細な視点を通じて、物質の変容や周縁的な現象あるいは対象への考察を深めてきた。呉橋は金銭を得るために肉体を改造する技と伝統が息づいた場所であり、その雑技はいまやツーリズムと融合した文化産業となっている。自身のルーツから遠く離れ、孤独な訓練と祈りの日課が構成する均一的な時間のなかで、肉体の改造に励む留学生たちの姿は、グローバルな近代化を推し進める国際社会の姿にもどこか重なりを感じさせる。

 いっぽう、ジョージア・トビリシ出身のヴァジコ・チャッキアーニによる2つの映像作品《Heavy Metal Honey》《Cotton Candy》(ともに2018)は、女性の内面で起こる心理的葛藤およびその経過を描いているようだ。映像に登場する2人の女性は、家庭、あるいはサーカスの劇場といった、ある種の閉鎖的空間で、それぞれが物思いに沈んでいる。

 チャッキアーニの映像作品では、しばしば象徴的な物質が登場し内容への重要な鍵を握ることが指摘されるが、それらの特徴は、《Heavy Metal Honey》や《Cotton Candy》といった、甘い蜂蜜や砂糖菓子を連想させる題名によってもっとも示されている言えるだろう。土壌に含まれた重金属を意味する「Heavy Metal」は、「Honey」という単語とともに、土に根を張る花がそれらの微毒をも取り込みながら成長し、さらに蜜蜂がそれらの花から蜜を収穫するといった、自然の循環をも想起させる。また、《Cotton Candy》の女性が連れている孫娘の存在から、女性たちが両者とも「家」という背景を分かち合い、外からは見えないそれぞれの内面世界のなかで、激しい葛藤を経験するというテーマを共有していることがわかる。

 本展で紹介する、三者三様の色合いを醸し出す映像作品には、閉鎖的な空間で内省を強いられるという、どこか現在の私たちの状況に通ずる一面を見出すこともできる。展示は映像作品とともに数点の小品で構成。次の日程で各作家の作品が上映される。2月3日〜2月19日 ヴァジコ・チャッキアーニ、2月24日〜3月12日 ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ、3月18日〜4月2日 ヘ・シャンユ。