2017年展覧会ベスト3
(美術評論家・清水穣)
数多く開催された2017年の展覧会のなかから、6名の有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回は美術評論家・清水穣編をお届けする。
|岡﨑乾二郎の認識― 抽象の力―現実(concrete)展開する、抽象芸術の系譜
(豊田市美術館、2017年4月22日〜6月11日)
岡﨑乾二郎による企画展。「アメリカの影」に入った戦後日本の時空間でアメリカ式に単純化され忘却される以前のモダニズムを、ベネディクト・アンダーソンの『三つの旗の下に』を思わせるグローバルな視野から再読することで、20世紀初頭の発生期の「抽象の力」を再認識し、さらにその系譜を、大西洋回り(欧→米)ではなく、ユーラシア→日本→米西海岸という東回りで辿ることによって、明治から昭和初期にかけての豊かなモダニズム受容とその展開を明らかにした。その意外な系譜(フレーベルの幼児教育、シュタイナー、夏目漱石)、予想外の人的・物的関連(ダダの工芸性、戦前日本の世界同時性、岸田劉生や創作版画のアメリカ美術への影響)など新しい知見が満載で、支配的な自虐的日本近代美術史観から解放する、明るい力に満ちた展覧会だった。
| 愛しきものへ 塩谷定好1899−1988
(島根県立美術館、2017年3月6日~5月8日)
1920〜30年代にかけて、写真の東回りのモダニズムは、ドイツから日本を経て米西海岸まで拡がり、当時の批評家たちもそれを認識していた。その時期の山陰に存在したモダンな世界同時性を、塩谷定好という一人の写真家を例に丁寧に跡づけた、上記展を予め補足するがごときの展覧会。ウェストンやエヴァンズの同時代人、塩谷定好の写真は、奇跡的に良好な状態で塩谷家に保存されていた。戦後日本が忘れさせられた同時代のモダニズムが、美しいヴィンテージプリントにはっきりと写し留められている。
|陶芸↔現代美術の関係性ってどうなってんだろう? (現代美術の系譜に陶芸の文脈も入れ込んで)
(Kaikai Kiki Gallery、2017年8月3日〜30日)
戦前日本の同時代モダニズムの受容と展開は、敗戦後、物質的精神的にアメリカの植民地支配下におかれた時空間では忘却されて、ニューヨーク経由のモダニズムが被植民地=日本にいまさらのように輸入された。村上隆は、この歪んだモダニズム再輸入を「古道具坂田」に重ね、さらに80年代セゾン文化へと接続する。「おいしい生活」とは、被植民地の「自然」な「貧しさ」や「拙さ」をうま味に変える倒錯である。現代陶芸界に普及する坂田流の「美」とはそんな「おいしさ」に他ならず、同じ味が80年代現代美術にもする。80年代の現代美術に対する、鋭くシビアな企画展。