美術手帖2021年2月号「ニューカマー・アーティスト100」特集
「Editor’s note」
『美術手帖』2021年2月号は「ニューカマー・アーティスト100」特集。雑誌『美術手帖』編集長・望月かおるによる「Editor’s note」です。
今号は、「ニューカマー・アーティスト100」特集の、第2弾をお届けする。前回の 2016年12月号でこの企画を組んだ背景には、美術大学の先生たちが持つ危機感があった。それは、卒業後にアーティストを続けていくことが環境的に難しく、芽が出る前に制作を断念してしまう学生が多い、というものだ。理由としては、先が不確かな道のりゆえ、家族の理解や経済的な困窮、またメディアで取り上げられる機会やギャラリー等で発表するチャンスの減少などが挙げられた。このような状況は、残念ながらその後大きく改善されたとは言えないだろう。むしろ2020年初頭から続くコロナ禍は、発表の場をさらに狭め、従来の活動の在り方は否応なく変化を求められている。だがそうしたなかから、新たな制作・発表の方法の模索と、次なる展開がうながされる可能性もあるのではないだろうか。
今回も、推薦者が作家を複数挙げるという前回の枠組みは踏襲しつつ、都市や男性視点中心といった偏りができるだけないよう、各地域から、キュレーターや批評家、作家、そして大学等で教育に携わる方々に、すでに活躍目覚ましい作家よりも、無名に近い若手を積極的に挙げてもらった。近年は30代以降になって注目されたり、様々な事情で中断したキャリアを再開するケースもあるため、年齢制限は設けていない。そのため、上は74歳、下は16歳と年齢の幅が広いこと、また出身地や活動拠点が国内にとどまらないことは、今回の特徴と言えるだろう。表現活動の面では、CGや映像、音や声、布などの様々な素材と、リサーチ、パフォーマンス、手工芸といった手法をいくつも組み合わせ、作品の形式自体に多層性が見られること、さらに展覧会企画やスペースづくりを行い、複数のアイデンティティやゆるやかなつながりを持つ作家の多さも目立った。
第2特集では、1月より京都市京セラ美術館で開催される「平成美術:うたかたと瓦デブリ礫 1989-2019」を紹介する。企画者である椹木野衣氏のインタビュー中で印象的だったのは、言葉は流動するものであるがゆえ、コレクティブといった既存の言葉で作家たちの活動を固定してしまうことで、重要なことが見過ごされてしまう、という指摘だ。従来のカテゴリーには収まらないかたちで、まだ見ぬ表現を探究する活動が生まれつつあるいま、それらをとらえる言葉を、我々も彼らと並走しながら模索していきたい。
2020.12
雑誌『美術手帖』編集長 望月かおる
(『美術手帖』2021年2月号「Editor’s note」より)