「感覚のエデン」から、ジャパニメーションに見る「成熟の不能」まで。『美術手帖』12月号新着ブックリスト(1)
新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を取り上げる、雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナー。岡﨑乾二郎の多岐にわたる批評活動をまとめた選集から、宮崎駿ら日本のアニメーション監督の作品における「成熟」をめぐる苦闘を論じた1冊まで、注目の新刊を3冊ずつ2回にわたり紹介する。
感覚のエデン
岡﨑乾二郎批評選集 vol.1
岡﨑乾二郎の長年にわたる多様な批評活動をまとめた本書からは、作家の一貫した問題意識──おそらく、岡﨑の制作にもつながるものだろう──を取り出すことができる。それは、自律した構造はいかに可能になるのかという問いである。例えば、タイトルにもある「感覚のエデン」とは、諸感覚が超越的な審級による統合を経ることなく、自律性を保ちながらも、同時にひとつのシステムをなすという状態を指している。こうした言葉にも表れる、知覚の可能性の縁に肉薄する態度が、岡﨑による批評/制作の中心にある。(岡)
『感覚のエデン 岡﨑乾二郎批評選集 vol.1』
岡﨑乾二郎=著
亜紀書房|3600円+税
ジャパニメーションの成熟と喪失
宮崎駿とその子どもたち
大人になりきれないオタク男性が抱え込む「成熟の不能」は、いまなお古くて新しい問題としてアニメーション作家たちの創作モチーフに引き継がれているのではないか。この前提を出発点として、宮崎駿、庵野秀明、新海誠、細田守らの作品に「成熟」をめぐる苦闘の形跡を読み取る。とりわけ熱が入るのが『もののけ姫』の分析。著者自身、果たすべき大人の責任を当事者の問題として引き受けており、エモさを包み隠さないメッセージ性の強い文体がまっすぐに突き刺さってくる。(中島)
『ジャパニメーションの成熟と喪失 宮崎駿とその子どもたち』
杉田俊介=著
大月書店|1800円+税
増補 現代美術逸脱史 1945-1985
戦後日本において美術はいかに展開してきたか。あるいは、ここでいう「美術」とはいったいいかなるものか。本書によれば、日本には西洋と異なるかたちでの美術──「類としての美術」──が存在するという。こうした発想は、脱西洋中心主義的な視点を獲得するうえで重要だが、安易に日本特殊論に着地しうる。本書の立論は危ういバランスの上に成り立っているように見える。また、「この先へ」と題された増補部は、閉塞感を強く感じさせるものになっている。この本を読み継ぐ世代には「近代美術の終焉期」の先を見出すという課題が残されている。(岡)
『増補 現代美術逸脱史 1945-1985』
千葉成夫=著
筑摩書房(ちくま学芸文庫)|1500円+税
(『美術手帖』2021年12月号「BOOK」より)