アートの秘密を解き明かす!?
3月号新着ブックリスト
『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を紹介。2017年3月号では、これまで語られてこなかった作品、美術界の舞台裏など、美術界の様々な謎や秘密にアプローチする4冊をを取り上げた。
『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』
ユーリー・ノルシュテインが1979年に手掛けたアニメーション作品《話の話》。直線的な筋をもたず、様々なシーンが浮かんでは消えるこの作品は、専門家や関係者にも解明できない「謎」として受け止められてきた。評論・研究やキュレーション活動に携わる著者が、「個人作家によるアニメーション」という観点から論を展開。《話の話》と精神的風土を共有する個人的アニメーションの系譜を踏まえ、生への内省を促す作品の本質に迫る。(中島)
『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』
土居伸彰=著
フィルムアート社|2800円+税
『絵画との契約─山田正亮再考』
「endless山田正亮の絵画」展(東京国立近代美術館などで開催)に向けて、批評家や学芸員が重ねた連続討議の記録集。制作を統制するシステムはあったのか、コンセプチュアルな作家として山田を見ることは可能か、初期の静物画はモランディやキュビスムといった補助線で理解できるのか、長谷川三郎や戦前の日本の抽象画との造形的な類縁関係はあるのか。数々の問いを呼び起こす作品の構造を、モダニズムの理論を参照しながら徹底的に思考する。(中島)
『絵画との契約─山田正亮再考』
松浦寿夫+中林和雄+沢山遼+林道郎=著
水声社|2500円+税
『サザビーズで朝食を─競売人が明かす美とお金の物語』
クリスティーズとサザビーズ、2大オークション会社での勤務経歴をもつ著者が、美術市場のからくりをユーモアたっぷりに綴った一冊。ともすれば下世話になりかねない業界の暴露話も、この英国紳士は実にスマートに語る。まるで、マジシャンの鮮やかな手際を見ているようだ。AtoZの形式で、気になるトピックから選びとって読むこともできるが、彼の巧みな“話術”によって、花形オークショニアの35年の回顧録を、瞬く間に通読してしまうことだろう。(松﨑)
『サザビーズで朝食を─競売人が明かす美とお金の物語』
フィリップ・フック=著
フィルムアート社|3000円+税
『GUTAI:周縁からの挑戦』
具体美術協会の活動に対する近年の国際的な評価と研究の進展に、2011年の原著(英語)の出版は大きな影響を及ぼしているだろう。著者は日本での調査・研究をもとに、具体の活動と現代に至るまでの評価史をグローバルな視点で読み解くキーワードとして、「脱中心化」を挙げる。平易な言葉で、丁寧かつ論理的に編まれた論文からは、日本戦後美術を専門とする著者の明晰さはもちろんのこと、社会に一石を投じた芸術家たちと同質の、果敢なる精神が感じられる。(松﨑)
『GUTAI: 周縁からの挑戦』
ミン・ティアンポ=著
三元社|4000円+税
(『美術手帖』2017年3月号「BOOK」より)